「エアギフト」試作品v1.0のパケ印刷&加工データ

試作品モニター募集で日本各地に送り出している、エアギフトのパッケージver 1.0を少しご紹介します。箱やパッケージの印刷のかなりマニアックな話です。

上の写真は刷りたてが届いた状態です。今回のパケは、印刷と型抜きを頼んで、納期をできるだけ安いコースで250部・4万5千円くらい。これでもかなり安い部類です。

将来1,000部単位で印刷を発注できるようになるまでは、1枚のコストはかなり高い状態が続きそうですが、デザインと構造が固まるまで、しばし辛抱。数回はつくりなおすことになろうかと。

みなさんもお菓子の箱などで目にしている型抜き加工は、業界用語で「トムソン加工」と言います。

グラフィックデザインのデータ以外に、下のような、切る線(黒)と、折り目をつける線(青)のデータを渡すと、専門の職人さんが、例えて言うなら「巨大なクッキーカッター」のようなものを作ってくれます。

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できあがったクッキーカッターで、仕上がった印刷物を、型抜きして完成。

今回の形はかなりシンプルな方です。こういうパッケージだと、組立てた状態の仕上がりサイズは小さくても、展開すると大きいので、今回はA3サイズぎりぎりでした。紙はマットコート220kgという、一般的によく印刷物に使われる紙なので、コストは安く済ませましたが、仕上がりは良かったので一安心。

ビジュアルデザインのデータはこんなかんじ。裏と表側です。印刷位置は、型抜きの位置と揃えてあります。

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短時間で作った内側のデザインは、これまでのところ、モニターのみなさんに超不評なので、かなり手を加えるつもり。外側は基本的にこんな感じでいきます。

試作品は140 x 140 mmの組立後寸法なのですが、サイズと縦横比率はかなり変える予定です。というのも、印刷発注後に、80円の定型郵便の寸法と重さをクリアしていないことに気付いてしまったからです。こういう勘違いミスが必ず起きるので、いきなり数万部などという発注はできません。絶対に少部数の試作が必要です。

エアギフトの開発裏話においては、今後、コストの話が結構出てくることになると思います。

なぜかというと、今回の試作品のバージョンは切手代まで含めて「無料」でオーダーできる、というビジネスモデルを目指しているからです。金をかけてゴージャスなデザインを作るのはさほど難しくないのですが、超低コストですごいデザインを作るというのは、腕の見せ所・・・というか地獄への数ヶ月コースの旅路となります。このあたりの企みは追って詳しく・・・。

モノ作りで避けて通れない『試作』という名の磨き上げ地獄。

天才的なデザイナーは、頭の中からすごいアイデアをひっぱり出し、百発百中で完成形を創り出すと思っている方は多いですね。はたから見ると、そんな、神がかった仕事をする人がいるように見える。

真偽はいかようなものかというと・・・。

天才的な人でも、その舞台裏では、一発OKになる案がでることなどめったにありません。

なぜかというと、何か新しいものを生み出す仕事のプロセスというのは、完璧とは言いがたいボロボロの原石を、すこしずつ、そしてまたすこしずつ、磨きあげていく作業だからです。

わたしが、過去にお仕事を手伝う機会のあったすごいおじさんおばさん達でさえそうなので、自分のような凡人に、そんな一発芸ができるはずもなく。

・・・ということで、延々と続く商品開発地獄の道のりを、また一歩踏み出してしまった、阿部でございます。

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今回の冒険は、その名も「エアギフト」。

中途半端な贈り物を貰ってもうれしかない昨今、おさいふも軽いし、じゃあ、心遣いだけつたわりゃいいじゃねえの!、というコンセプトのサービスです。

数年前に一輪の花を郵便でおくるという、いかれたサービスでグッドデザイン賞を頂きましたが、今回は、ポストにあめ玉1つが届くというサービスをやることにしました。自分で書いてて軽く呆れますが・・・。

その前回のものも、最終形になるまでおそらく100バリエーションくらい作り、実際に販売したデザインも3回ほど全面改定しました。

今回のエアギフトは、先週末に試作品のモニター利用者を募集しはじめたデザインが15バージョン目くらい。みなさんにお見せするものとしてはバージョン1となります。

グッドデザイン賞の一次審査にはこのデザインで提出しましたが、お送り頂くご意見を短時間で反映して、7月中旬の最終審査の提出締め切りに間に合わせる無茶な進行です。おそらく、この形から一回は大幅に改造を行います。

デザイン屋さんが、いかに確信をもっていても、自分以外のみなさんに、試験的に使って頂くというプロセスは必須です。価値感や生活習慣が違う方が、はじめてこのデザインを見たり使ったときに、何が起きるかは経験上、ほぼ毎回、予測不能。

長い時間つきあっているものに対しては、眼がバカになります。客観的な「はじめて」の眼で見られなくなってくるためです。デザインに限ったことではありませんが(意味深)。

ということで、来週くらいまで無料モニターを募集していますので、チャレンジャーなあなた様の率直な批評をお待ちしております。改良の過程は、このブログにぽつぽつ掲載していきます。

グッドデザイン賞の看板背負って、台湾の展覧会×2に出品

すこしまえの2012年の8月初旬。グッドデザイン賞を運営している財団からメールが届きました。

何事かと思って読んでみると、秋に台湾で行われる2つの展示のために、私がグッドデザイン賞を受賞した作品を、貸して頂けませんか?という打診でした。

こういった協力は、ほとんどの場合、宣伝効果の見返りに、お金と時間はこちらもちとなります。もう売っていない商品なので、ビジネス上のメリットはまったくありません。ちょっと悩みましたが、いまの相方にも意見を聞いて、まあ、海外の展示会に出品したという箔はつくので、協力して差し上げようかという結論に。

なにせ打診された主旨が主旨ですしね →「グッドデザイン賞受賞デザインの中から、近年の日本のデザインシーンを分かり易く伝えるセレクションを行い、緻密で成熟した日本のデザインを紹介」きわめて光栄です。

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この「はなてがみ」という受賞作は、一輪の花を郵便で届けるというサービス。2010年に、わたしが当時のパートナーとやっていた花屋のために作ったもので、いまではデザインが変わっており、受賞バージョンは販売されておらず現役ではありません。もうひとつの問題は、生きた花も一緒に貸し出すわけにもいかず、紙パッケージだけの出品になってしまう。その旨、お伝えしたところ、それでも構わないということでした。

受賞時のグッドデザイン賞の審査会用につくった、横長のプレゼンパネル(上画像)もデータを残してあったので、簡単に英語版でも作りましょうか?とご提案したところ、非常にありがたいとのこと。日本人でも意味不明の商品ですので、わかりやすく書き直しました。台湾の人向けにやさしい英語にて。パネルを作るのはちょっと金がかかるなぁーと思っていたら、台湾現地で出力できるのでデータだけで大丈夫とのこと。(印刷業界のマニアックネタですが、二重トンボは日本だけなので、海外用には1本トンボで納品です)

当時のパッケージはもう手元に無いので、展示用の3本+予備数本を手作業で再現することに。紙の大御所・(株)竹尾さんのネットストアで少量オーダー。当時使っていたオリジナルの紙がちょうど在庫切れで、近い色のものを入手しました。違う色と言っても、リサイクル系ナチュラル色の紙なので素人眼にはまったくわからないですけどね。紙パケの展示は、来た人が触りまくってよれよれになるので予備が必須です。

2週間後に横浜の倉庫からまとめて台湾に送られるそうで、大急ぎで準備。たまたまその頃に、わたしは台湾1泊経由でベトナムに休暇に出かけるところだったので、早めに梱包して出荷しました。展示会よりも1ヶ月ほど前に立ち寄った台北で、ほー、この街のひとたちが見に来るのかぁと思いをはせてみました。

私の推測ですが、打診が来たのがちょうど夏休みの時期だったので、協力できる受賞者を探すのに苦労なさっていたのではなかろうかと。私は基本的に個人営業なので、フットワークが軽いのが取り柄ですので。

さて、展示会が終わった頃、担当の方から、大量の写真が届きました!

ぬおっ!現地の若いねえちゃんが、うちのあれを手にとって見ているではないか!

出品しただけでおしまいかと思っていたら、丁寧に会場の写真も撮ってくださった上、展示会の報告レポートも添えてありました。さすがグッドデザイン賞の母体、隙が無い。参加してよかったです。

写真を載せる許可を頂きましたので、一部ご紹介します。写真のご提供は、天下の公益財団法人日本デザイン振興会・劉 夢非さまです。

 

2012 TAIWAN DESIGN EXPO(台湾・高雄市)

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こちらは高雄市で行われた「2012 TAIWAN DESIGN EXPO」の会場。グッドデザイン賞の展示は、世界各国のデザインを展示するInternational Design Pavilionにて。倉庫街をリノベーションしたアート系施設らしいです。

8121422096_26b05e42ca_b開場前の風景。大量の作品を持って行ったのかと思いきや、以外と少ないですね。

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すごい混雑。台湾はApple製品をはじめとする世界の電子機器の産地としても有名ですので、プロダクトデザインには注目が集まるのかもしれません。私が台湾に立ち寄った時に気付いたのは、日本ブランドの店がそこら中にあること。ファミマ、クロネコ、ビアードパパなどなど。ものすごい親日な国なようなので、日本コーナーは混雑していたのかも(想像)

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日本コカコーラ様の緑キャップボトルの受賞作「いろはす」の左となりが、うちの子です。おお!ガン見されとる。まあ、意味不明の商品でしょうからね、なんじゃこりゃ?という感じですかね。デザインした本人はいたって本気ですが。

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なんと、スタッフの方が花を調達して、中に入れてくださったようです。会場の写真を見るとパネルまで提供したのはうちくらい。そのせいか、お礼に下のような写真も沢山撮ってくださった?(妄想)

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台湾国際文化創意産業博覧会(台湾・台北市)

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ところ変わって、こちらは同じく台湾の北部、台北で行われた「台湾国際文化創意産業博覧会」のグッドデザイン賞ブース。イベント名からして、クリエイティブ系見本市というところでしょうか。家族連れまで来てますね。

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ぞくぞく届く、法人税務の取扱説明書

税務署さまから、ずしっと重い、分厚い説明書がつぎつぎとご到着です。

社員の源泉税のまとめ支払いと、年末調整が両方12月末締めなので、その解説書です。毎年計算方法が少し変わったりするようですので、うちの会社が新米だから気を遣って送ってきてくれている、というわけではないのかも。

源泉税も年末調整も初心者なので、しっかり読まないといけないですね。

意外にも、税務署さんからは、わたしが個人で活動していた頃よりも頻繁に電話がかかってきたり、書類が届いたりします。

会社となると、社員の源泉税を天引きして納める立場にあるので、シビアなのでしょうか。個人の納税者の上にあるのが、法人の納税者ということになるかと。

前に税務署のお兄さんからから聞いたところによれば、個人相手の部門は、確定申告のある3月からが忙しく、夏までにかけて書類の処理で手一杯なのだとか。したがって、税務調査や、納税者へのコンタクトは秋からが多いとのことです。

法人の方はというと、各社とも事業年度が違うので、年間を通してお忙しいのかもしれません。年中連絡が来ます。阿部書店株式会社は、6月設立なので、6月〜5月が事業年度ということになります。

個人営業のみなさん、いま、秋ですね、ふっふっふ。

毎年の収入が乱高下したり、経費の使い方に同業の他の事業とくらべて飛び出ている部分があったりすると、税務署さんの眼にとまるそうです。たしか税務調査が来る率は、個人事業者の4%くらいだと所員さんが言っておられました。

アマゾンジャパンの「Kindleストア」で、この国の本は激的に安くなる

いまにも出るぞ!出るぞ!と言われ続け、いつまでたっても始まらなかった、Amazonジャパンの電子書籍販売サービス「Kindleストア」が、本日 2012年10月25日、ついにスタートしました。

さっそく、覗きに行ってみたら、電子版書籍の値段を見てビックリ。

うぉっ、どれも紙版より安いじゃないの!!

日本のKindleストアの価格設定を見ると、例えば、紙版が定価714円の漫画「テルマエロマエ 第1巻」がKindle版だと215円(70オフ!)。最近ベストセラーになっているビジネス書「ワークシフト」は、定価2,100円が1,500円と30%オフになっています。

アメリカの書店だとベストセラーコーナーに並ぶ本は、だいたい数割引で売っています。日本で新刊本が値引きされるというのは、わたしにはやっと同じようになったかという気分です。

日本の新刊書籍や雑誌は、独禁法で「値引きが禁止」されてきました。この国では、大手出版社がアクセルとブレーキを同時に踏み続けたせいで、電子書籍がぜんぜん普及していないですから、事実上、日本のすべて新刊本は、定価で売られるもの、というのが相場です。

昨日までは。

消費者として激しく頭にくるそういう状況も、おしまいとなる可能性がでかいと思われます。

法律により製造者が決めた「定価」で売らなければならない商品という、消費者としては意味不明ものが、今も存在します。日本の公正取引委員会が名指ししている商品たちで、新品の書籍、雑誌、新聞、音楽ソフトなどの著作物商品がこれにあたる。なぜかDVDなどは入っていません。1997年までは化粧品や医薬品も含まれていました。本は、最後までしぶとく残っている指定商品の一つということになります。

そうすると、電子書籍も「定価で売らなければならない」という制限にひっかかりそうなものですが、調べてみると、制限のあるのは「物」の商品に限るのだそうです。

つまり、電子書籍は、アマゾンのような小売り業者が、好きなように値段を付けられるというわけ。今後、なしくずし的に、紙の本は定価でないと売れないという制限も崩れていくかもしれません。そりゃ人間、機能がほとんど同じなら安い方を買いますからね。

そんなうちの一人であるわたしは、ここ数年、アメリカのアマゾンからKindle電子版の洋書をたくさん買ってきました。

いつでもどこへでも持ち歩ける便利さや、欲しいときに瞬時に手に入ることじゃありません。そんな程度のことでは、私の買う和書・洋書トータルのうち、3/4までもがKindle版になったりはしません。

決定的だったのは、「明らかに安い」ということ。

注目していただきたいのは、「安い」ではなく「明らかに安い」という点です。紙版とKindle版のどちらを買おうか迷う余地がないほど安いものが多い。やはり本は紙で読みたいというような理屈は、値段が同じならという前提があるわけで、値段が半額となると信念もグラグラになる。

米AmazonのKindle本は、一部の売れ筋の本だと、紙版と比べて半額で売っているものすらある。多くの本も、少なくとも数百円程度は安い。くわえて、米アマゾンから買うと、日本までの数千円の送料もかかってしまいます。

いまでは、読みたい洋書があると、なにはともあれ、まずはKindle版があるかどうかをチェックのが習慣になりました。

金の沙汰と、そしてポルノは、人の波が流れる方向を変える巨大なモチベーションになる。新しいテクノロジーが普及する大きな要素です。

最近では、東京の本屋に立ち寄って本を手に取ったときも、原著が英語の場合は、ポケットからiPhoneをひっぱりだし、アメリカのKindle版だといくらかをチェックしてから、安い方をその場で購入するようにしています。紙の本ならそのままレジへ、Kindle版ならその場でiPhoneから購入手続きするか、試し読みサンプルをダウンロードします。

この経費削減ワザは、日本語と英語がどっちもサクサク読める人にしか使えなかったテクニックでしたが、それも、今日から少しづつ変わっていくでしょう。日本の本もKindleの方が安いとなると、和書にも通用するようになる。

日本のKindleストアは、和書5万冊からスタートだそうですが、売れるとなれば多くの出版社がKindle版を投入するでしょう。ぜひとも、そうなって欲しいところです。

 

領収書は「阿部書店株式会社」でお願いします。法人登記完了

地下鉄・九段下駅を出ると、雨が降り始めていた。

まだ小雨だけれども、私は傘を差し、皇居の方向へと歩き始めた。数分歩くと、左手に東京法務局が入っている、これといった特徴の無い建物がある。

法人登記の部署は3階で、この建物には税務署やらなんやら入っているようで、工務店風のおじちゃん達が次々にエレベーターに乗ってくる。

私はカバンから、おろしたばかりの現金が入った封筒を取り出すと、印紙売り場のブースに向かい、ドキドキしながら言った。

「株式会社登記の、15万円をお願いいたします。」

おばさんは、奥の方の姿の見えない人物に向かって「数えてください」と言いながら、私から受け取った札の束を渡す。そして、10万円と5万円分の印紙を1枚ずつ私の前に置き、小ぶりな領収書にサラリサラリと素早い手つきで「150000」と書くと、大きな丸いハンコをドドスンと押しから、「はい、ありがとうございます」と言って差し出した。

15万円の価値がある切手のような紙きれなんぞ、めったにお目にかかるものではないから、さっそく写真を撮って、ツイッターとfacebookに載せた。

前に、商標登録の出願で特許庁に行ったときでも、たかだか4万円くらいの印紙だったから、私が見たことのある紙片の中では、面積あたりで一番高価な紙切れだ。

法人登記の受付カウンターを見つけ、列に並んで順番を待つ。

私の前に数人ていど。事業年度の開始は毎月1日だから、今日はあまり込んでいないのだろう。

先頭に目を向けると、業界系のおばさんと窓口のお姉さんが向かい合って、マジな表情で、2冊の書類の束を同時に機敏な動きでめくっている。数秒凝視した後に、1ページめくり、そしてまた1ページ。何をやっているのか皆目検討がつかないが、見事なシンクロぶりだ。

その姿は、鏡に映る相手の真似をする、パントマイムのごとく。

あっという間に私の番が来て、そのパントマイム担当の若いお姉さんに書類を渡した。

書類作成は代行してもらったので、特に不備があるとも思えないから、これでめでたく登記完了だ。

・・・ところが、お役所らしからぬカジュアルな口調のお姉さんは、書類の束の1ページ目を一瞥するやいなや、「本店の住所は新宿区ですかぁ?」と言った。

「すみません、新宿区の登記は、新宿出張所の方に行って頂かないといけないんですよぉ。もしも今日中に登記なさりたいようでしたら『走って』大久保に行ってください」

「は、走ってですか?(笑)えーと、何時までやってますか?夕方までは大丈夫ですかね」

「そうですね、5時15分までやってますのでぇ」

東京法務局の管轄エリアは、東京23区全部だと書いてあったので、九段下にある親玉の建物に行けば良いと思い込んでいたが、来る場所を見事に間違えた。

そして向かった先は、コリアンタウンとして世に名をとどろかせる大久保駅。駅を降りてからの道すがら、韓国語やら中国語やらが耳に入ってくるので、そのへんにいる人が、みんな外人さんにも見える。

東京法務局・新宿出張所は、さっきの都会派最高峰に比べると、ぜんぜんときめかない門構えだ。隣の不動産屋の看板と、デザインと色使いでは区別がつかない。

少々がっかりしながらも、人影まばらな法人登記の窓口へ向かうと、そこにいたのはヨン様だった。

さきほどの女性とは対照的に、クソマジメで色白メガネの大人しい、愛想ゼロの青年。いかにも公務員なわけで、むしろこっちの方がしっくり来ると言えば、そうとも言える。

「株式会社の登記をお願いします」

今日2回目のそのセリフを言って書類の束を差し出すと、ヨン様は、まず綴じていた大きなクリップを外し、無言で書類をパラリパラリとめくって確認している。一言「18日です」と言って私にA4のコピーを1枚渡し、彼は書類の束を小さなワイヤークリップでまとめると、すぐわきのパソコンに座ってキーボードを打ち始めた。

その紙には「本日(6/12)の登記申請は、6月18日(月)を予定しております」とある。その日以降なら、登記が完了した証明書を発行することができるということのようだ。その証明書をもらって初めて銀行に口座をつくったりできるようになる。内容の審査のようなものがあるので、その場ですぐには完了しない。

特に受領控えのようなものをくれるわけでもなくて、いつも不安になる。

先日、父の会社の手続きで府中法務局に行ったときも、書類を渡すと「ご苦労さまです」とだけ言われて終わりだった。法務局というのはそういうものなのだろうか。

こういうものに慣れていていない私は、念のため1分ほどロビーをウロウロして、ヨン様が私を探していないことだけ確認すると、傘を取り出して、雨の大久保の街へと出て行った。

設立日は、書類を提出した本日付。今日からは、領収書は「阿部書店株式会社でお願いします」ということになるのだ。

私は、若い頃に立ち寄ったことのある、大久保駅と新大久保駅のちょうど間にある、安い回転寿司の自動ドアをくぐると、独りプチ祝いランチの会をはじめた。

株式会社をつくる費用を、現ナマで並べてみた

「法人」とは、法により人とされている組織のこと。

つまり、法人設立とは、私たちと同じ「自然人」と似た権利を持つ、「人」が一人新しく生まれるということ。

俗に「マイクロ法人」と呼ばれる社員=社長だけの1人起業の場合、自分の分身を作って、税制や仕事によって使い分けるという感覚で生きていくことが可能になると言われています。

この金額で、自分をもう一人作れるというのは、安いと思いますか?高いと思いますか?

株式会社設立には、公証役場と法務局に現金を持って行くことになりますが、せっかくおろしてきたので、並べて撮影してみました。

(このほかに、前回書いた書類作成代行サービスを使う場合は7,350円が必要。現金以外に、現物での出資がある場合はオプション書類制作で+2,000円となります)

こんなに楽チン、今どきの法人設立。阿部書店株式会社の誕生ちかし

株式会社設立は、つくるときも、そしてその後も、めんどくさいことだらけ!・・・というイメージを持っている個人営業のプロは多いでしょう。

私もその一人でして、長年、株式会社にしよう思っていながら、ずっと個人事業主として活動をしてきました。

ところが、この冬に橘玲さんの「貧乏はお金持ち」という本を読んで、会社設立に対するイメージが180度変わってしまった。そのときの私の興奮ぶりは、読み進めながらツイッターでマシンガンのようにつぶやくのを目撃した人はご存知でしょう。

そのびっくりな全貌は、詳しく書く機会が来るかと思いますが、この本で学んだことの一つは、会社をつくるという最初のハードルがものすごく低くなったということ。

日本政府が景気回復の一環で、起業を大々的に推進していて、規制緩和や法改正をしたのが、その理由です。

 

設立にかかる費用が3.5万円安くなった

会社のルールブックとなる「定款」を公証役場で認証してもらうとき、認証料5万円に加えて「4万円の印紙税」が必要でしたが、政府が推進する電子認証を使うと、これが「無料」になります。

自分で電子認証をやろうとすると、手間と機材導入費用がかかるので、行政書士に頼むのが現実的ですが、ネットだと5,000円程度で引き受けてくれるところが多数あります。

単純計算すると、株式会社の登記が「3万5,000円安く」なり、総額20万円ちょっとになりました。

行政書士に4万円で会社設立を依頼して、自分で手続きをした場合にかかるコストと相殺するという手もあるようです。

たった1人で設立できる

いままでは、代表者の他に、少なくとももう1人の取締役が必要でしたが、いまは「代表取締役1名だけでOK」になりました。

個人事業の自営プロも、第三者を巻き込まずにそのままの体制で法人に移行できます。

役員の任期もいままでは2年だったのが、最大10年に延長になり、わずらわしい書類手続きも減りました。

資本金が「ゼロ円」でも良くなった

これはご存じの方も多いと思いますが、昔は株式会社を設立するには「1,000万円」の資本金が必要でした。いまは、ゼロ円でも可能です。

ただし、現実的には、設立後に現金が少し無いと支障が出ます。自治体の創業融資などを利用する場合にも、資本金×数倍が限度額になるので、ペーパーカンパニーでもない限りは、ある程度は必要だそうです。

資本金は現金である必要はなく、「物」でもOK。

「物による出資」が簡単になった

資本金を物で出す場合は、「現物出資」と言って、個人事業として使っているパソコンやカメラ、オフィス家具などを「中古時価」で出資可能です。私の場合、製作機材や家具の多くを現物出資にして、合計70万円ほどを資本金の額として追加します。

この現「物」による出資総額と、現「金」での出資の合計が、会社の資本金ということになります。

おどろくべきことに、自社のホームページや、知的所有権(著作物や開発したソフト、特許権など)も、現物出資の対象です。つまりお金儲けのタネになる権利は、新会社に出資するという形で譲渡でき、妥当な事業価値が計算できるものなら、現物出資が可能。

私のケースでは、昨年開発したiPhoneアプリ(外注実費20万円、自分の人件費数ヶ月で製作)を、29万円の価値がある資産として、資本金に追加しました。(29万円という半端な数字なわけは、現在の資産一括償却の上限が30万円未満のため)

新会社法の現物出資では、500万円以下なら、取締役(=ひとり起業なら自分)が書く調査報告書だけ添えれば済みますので、第三者の資産価値評価は不要です。

また、現物出資した品々の総額は、そのまま経費として計上できるため、初年度の利益も圧縮することができます。相場以上の金額をつけて現物出資をすると、あとで税務署に怒られて課税されるそうですので、ご注意を。

書類作成から定款の電子認証まで代行してくれるネットサービスあり

私の場合、さいきん雑誌の起業特集でよく紹介される「会社設立ひとりできるもん」という設立書類の作成サービスを使います。

解説に従ってネットで情報を入力すると、プロがチェックした上で登記に必要な書類をすべて作成してくれて、たったの7,350円。+5,000円で、出来上がった定款はそのまま行政書士さんが電子認証してくれるので、前述のコスト節約にもなります。

自分でぜんぶ手続きをするよりも、プロに頼んだ方が安いという怪・・・。ただでさえビジネスの立ち上げで時間が惜しいときですから、頼まない手はありません。しかも最短1日で書類完成!

資本金の払い込みは通帳コピーでOK

資本金の払い込みには、設立登記の前に銀行にいったん預けて出資金払込証明書というものを出してもらう必要がありましたが、現在は、代表者の口座に振り込んで通帳をコピーするだけで良くなりました。法人設立の障害のひとつだった要素だそうです。

「同じ住所」に同名/同業の会社がなければ登記可能に

今までは、同一の市区町村内に同名称/同業種の会社があると登記できない規制があり、事前に調査をする必要がありましたが、これが撤廃され、「同住所(つまり建物)内」で重複しなければ登記可能に。意図的に大企業と同じ名前の会社と作ると法に触れるそうですが…。

「事業の目的」の記載は緩くてOK

前述の類似商標規制が撤廃され、業種がかぶる可能性が低くなったため、定款に記載する「事業の目的」は、広い意味の定義でよくなりました。いままでは、かなり具体的に書かないと審査ではじかれたそうですが、いまは「飲食業」や「不動産業」というようなものでも通るそうです。

ただし、取引先が登記情報をチェックする可能性がある場合は、ある程度具体的に書いた方が良いという情報も。

登記住所は郵便物が届けばどこでも可

登記住所は基本的に「郵便が届けばどこでもOK」なのだそうです。

部屋番号などを記載しないで登記しても、郵便局に届け出をしておけば配達してくれるそうです。登記可のシェアオフィスや、私書箱の住所でも構いません。マンションでも、具体的に登記を禁止していない限りは、別にうるさいことは言われないケースがほとんどだそうです(看板も出さないし、人も出入りしない極小会社の場合)

 

さて、会社を作った後のあれこれについても、以前より条件が良くなったことはいろいろあります。中小企業向けの減税措置や、会計・決算のことなどなどなど。

詳しく勉強&経験してから、また書かせて頂くことにします。