前回は、ライターよし子さんの話を例に、2つの対照的なお店の「取材しやすさ」を解説しました。
今回は、その中に出てきた要素を、ひとつひとつ説明していこうと思います。
さて、ひっぱりだこの有名人を取り上げるようなケースは別ですが、多くの場合、他にもたくさんの取材先候補がある中からベストなもの、「少しでも取材しやすいもの」が選ばれます。
例えば、私が取材しに行ったことがある、デザイナーやパティシエさん達だと、実力なんて誰も似たり寄ったりで、決め手となるのは、悲しきかな「スケジュールが空いているか」だったりするんです。それが現実。
小さなビジネスをやっている仕事人の場合も、実力なんて似たり寄ったりです。努力している人なんて、当然、みなさんレベルは高い。私の経験から言うと、多くの場合、ビジネスの実力やネタの魅力自体には、決定的な差があることの方が少ないのです。
すると、それ以外の要素で、取材先が決まることは多くなる。「取材のしやすさ」は、その中の一つです。
メディア側には、すんごいネタを発掘したいという欲望はありますが、自分たちの評判や発行部数・広告収入がかかっていますので、少しでも確実で有利なネタを選ぶ。そりゃそうです。仕事はスムースに進められるにこしたことはない。
わたしが書く側、そして、取材して頂く側の実体験から導き出した結論としては、取材しやすいビジネスや仕事人さん達には、次のような共通の特長があります。
取材するかどうか考えている段階で、情報が一通り手に入ること
取材先を決めるときは、編集会議でどこを取材するかを検討します。
編集さんやライターさん達が、たくさんの情報を持ち寄って比較しながら、どれにしようかを決めます。このときの情報というのは、取材候補に「連絡を取る前」に集められたもの。つまりコンタクトをとる前に、取材に値するかを決められる情報がなんらかの形で手に入らないといけません。
自社のウェブサイトなり、別の雑誌に載った記事が必要です。よほどの斬新なネタの場合は「資料を頂戴できませんか?」という電話がかかってくることもありますが、そんな気まぐれに期待しても無意味。情報はどんどん公開しておきましょう。
取材先探しには、ネットで検索して情報収集することが多くなっていますので「発見してもらう」ためにも、あらゆる情報の公開が必須です。
写真や資料といった「素材」が用意してあること
マスメディアの仕事のスピードは、びっくりするほど速いと心得ましょう。取材の打診が来てから、写真を撮ったり資料をまとめたりでは、せっかく声がかかっても取材がキャンセルになりかねません。
締め切りに余裕がある取材でも、複数の取材先をかかえている編集/ライターさんが多いので、〆切より遙か前に記事を完成させられることは重要です。
小さな記事だと、取材先から提供される資料だけを使って記事を書くことも多く、写真は提供してもらった「ありもの」を使うので、数ページの記事でないとカメラマンさんは来ません。
経歴や実績などをまとめた、簡単な「プレスキット」を用意してあるとなお可。
電話がかかってきたら、すかさず「プレスキットがございますので、すぐにメールで送りします」と返せすことができ、ライターさんの仕事を効率化できます。 プレスリリースのような堅い形式でなくて構いません。要は、情報がちゃんと整理してまとめてあればOK。
「取材慣れ」していること
テレビに出てくる有名人たちが、スラスラとインタビューに答えられるのは、能力が高いからではなく、同じことを百回も二百回も聞かれているからです。
取材「される」側にも場数を踏んだ経験が必要です。
取材慣れしていると、同じ質問を何度もされているので答えが磨かれていて、取材する側もインタビューが楽ちん。良いセリフも引っ張り出せます。必死でネタを掘り出そうとしなくても、すらすら話してくれるのはありがたいのです。
こういった理由で、特に取材先のチョイスに失敗が許されないメジャー媒体は、小さなメディアに何度も登場して実績を積んだあとの方が来やすいのです。
フレンドリーで、大歓迎してくれること
はっきり言って、取材対応をめんどくさそうにする人のところや、フレンドリーではないところには行きたくありません。
どうせなら、取材を喜んでくれてビジネスに役立ててくれるところを、載せてあげたいと思っていますし、気持ちよく仕事をしたい。
好感を持てる取材先というのが重要なのには、もうひとつ理由があります。
政治や芸能のニュース以外は、基本的に「ほめる」ものだからです。読者・視聴者の役に立つ、良い商品やサービスを紹介するための取材なのです。
ライターさん達は、良いと思えるものほど感情移入してスムーズに楽しく書けます。自分が好きでは無いものを、褒めて書くというのはものすごくつらい。
あまり取材を喜ぶと、弱みを見せることになってしまうと考える人もいると思いますが、そんなことはありません。嬉しいなら表現しちゃいましょう。メディアとのつきあい方が上手な著名人の皆さんでさえ、例外なく特大の感謝の言葉を返して下さいます。
第三者の評価があるかどうか
マスメディアは読者数・視聴者が多く、社会的影響力が大きいですから、実体のはっきりしない小さなビジネスは敬遠します。何かの賞をとっているとか、小さな媒体でも良いので何度も掲載されいると安心して紹介できます。
舞台裏やスタッフの顔が見える
取材先として決める前に、記事に使えそうなネタがありそうか、写真映えがしそうなスタッフ/仕事場かといったことの参考に、ブログやスタッフの経歴などは詳しく読まれます。
日常の活動が綴ってあると、片手間にやっているビジネスなのか、本気でがんばっているのかなども伝わってくる。取材をしてあげたら役にたててくれそうな、がんばっているところを取材したいと思うのがライターさんの心情でもあります。
ネタを洗い出して、わかりやすくしてある
ライターさん達はプロですから、どんなにしょーもない取材になったとしても、面白い記事にまとめ上げます。ですが、記事のウリとなりそうな要点がまとめてあると、分析する時間も節約できるし、編集会議で通しやすい。
例えば商品に関して言うと、この要点は、誠実にやっているとか、がんばって作ったとか、美しい/使いやすいと言った主観的なものではダメで、誰が聞いてもすぐ理解できる客観性があるのが理想的です。そういった要素がないネタは、読者が食いつく記事の見出しが書けません。
「また取材してあげたいな」と思わせること
さあ、1回目の取材が無事に終わって、しばらくすると見本誌が届いたり放送されりします。ここで喜んで、安心するのはまだ早い!
取材しやすいところには、機会がある限り何度も何度も話が来るようになるからです。
新しい商品を出したときに同じ雑誌からということもあるし、フリーの雑誌ライターさんの場合には、他の雑誌のお仕事で来てくださることも。
新しいところに取材に行くのは神経が疲れます。できることなら、顔なじみのところにまた行きたいというわけでして。
ですから、お礼のメールを送って、きちんと感謝の気持ちを伝えましょう。素敵な記事になっていたら、ライターさんを褒めてあげるとますます良い。彼らもプロの誇りをもって書いていますので嬉しくなって、また取材してあげようと思うものです。
この先の連載で書きますが、ある有名なデザイナーさんの取材では、マネージャーをしている奥様から、私が書いた記事に対する丁寧なお褒めの言葉をメールで頂いて、瞬時にファンになってしまいました。自分の書く文章にプライドのあるライター達ですから、そりゃあ、褒められたいんです。
紹介してもらったことで、お客さんが増えたり売上げが上がったら、時間が経った後でも、報告してあげると、メディア側の人たちも「ああ、私が紹介してあげたのが、役に立ったんだなぁ」と感無量です。ビジネスに影響があったということは、読者が記事に反応したという証でもある。こういった情報はメディア側も知りたいことです。
取材先が小さなビジネスの場合は、苦労しているところも多いですから、また取材してあげたくなるという人情もあります。大企業と違って、かっこいいところだけ見せていれば良いというものでもありません。
これらの条件は、お客さんへのアピールにも共通する
今回ご紹介したノウハウは、メディアに載るためだけの小手先のテクニックではありません。
メディアが取材に来やすいということは、しっかりと対外的な発信をしているビジネスだということ。
逆に言うと、お客さんへの情報提供を積極的にしていれば、自然に取材がしやすい状態になっていると言えます。メディアの人たちは、取材や記事の先にいる「読者」(=消費者)にとって役に立つ情報を提供しようとしているわけですので。
この記事でご紹介したことをきちんとやっていれば、小さなビジネスや仕事人のみなさんでも、取材が来やすくなるでしょう。
斬新な商品や話題を提供しようとするだけでなく、メディアのプロの皆さんが仕事をしやすいようにお膳立てをしてあげてください。