最高峰の写真家集団「マグナム・フォト」に写真を買いに行った話

仲の良い友人が初めてアート写真を買うことになり、お目付け役を任命されて、かのマグナム・フォトの、東京支社を訪ねました。

「アートを買いたいのだけどどこで何を買ったらよいか?」との相談。

絵画や彫刻に比べ、「写真」なら、有名作家の作品でも比較的安いし、理解しやすく、保管や管理も容易です。そして、写真を買うなら、王道はやはり「マグナム・フォト」ではないかとアドバイスしました。

マグナム・フォトは、所属することが極めて難しいことで知られる、言わずと知れた世界的写真家集団。1947年に、ロバート・キャパとアンリ・カルティエ・ブレッソンら4人の写真家が設立し、現在は69名が所属。ニューヨーク、パリ、ロンドン、東京に事務所があります。みなさんが雑誌や新聞でみたことのある有名な写真には、マグナムの写真家によるものが多数あります。

アメリカの公式販売サイトでは、公式プリントがリーズナブルな値段で売られていますので、見てみるのも楽しいです。売られている写真には3のタイプがあり、写真家の直筆サイン入りのもの「Signed」、プリント数が限定されている「Edition」(Singed & Ed)、すでに亡くなっている著名写真家の作品は「Estate Stamped」と言って権利を管理している組織の公式印が打たれたもの。限定数の作品は、残りが少なくなるにつれて値段が上がっていくとのこと。

今回の訪問では、このサイトで気になったもののうち一部を、現物または小さなプリントで用意して頂いて拝見。アメリカから直に買うこともできるのですが、今回は、あこがれのマグナムのオフィスにお邪魔してみたかったこともあり、東京支社に参上してオーダーすることに。東京・神保町の、三省堂本店の裏手にあります。聞いてみたところ、東京支社は、数少ない日本人のベテラン所属フォトグラファーのひとり、久保田博二さんが社長という形になっているそうです。

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暑い春の週末の昼頃で、到着早々、冷たい麦茶を頂きながら、写真集などもチェックしつつ、連れが目をつけていた作家の作品を物色。東京支社ディレクターの小川潤子さんが、それぞれの作家や作品の注目すべき点を、いろいろ説明してくださり、私も勉強になりました。

写真の買い方としては、写真集などを見て、好きな作風の作家を複数決め、その中から選ぶというのが良いと思います。マグナムの場合は個性派揃いなので、ジャーナリズム系からアート系まで、好きな作品を見つけるのには苦労しないでしょう。希望すれば、好きなタイプの額装まで依頼できます。

聞いてみたところ、マグナム・フォトの写真家の作品ならば、指定すればあらゆる写真をプリントで買えるのだそうです。これは知らなかったので驚きました。ただし、写真家自身がサインするので、戦場カメラマンや海外遠征の多い作家の場合は、時間がかかるとのこと。

アートを買うのは、詳しい人でもハードルが高いですが、写真ならば単純に美しいものも多いし、作品の意図も理解しやすい。超有名な作品でも、十万円単位くらいで公式の本物を購入することができます。意外と簡単に買える本物のアートということですね。

ちなみに「写真をプリント」すると一口に言っても、こういったアート作品レベルのプリントは、単にボタンひとつでポンポンコピーされるものではなく、作家本人の監修の元に、熟練の職人が色や構図をあれこれ調整をした上で、長年保管できる芸術作品グレードでプリントされます。

マグナムの場合、若手写真家や、戦場カメラマン出身でまだアート作家としての価値が定まっていない作家の限定数プリントは、お買い得だと教えて頂きました。狙い目です。サイン入りや、エステートスタンプ作品は、プリント数に上限がありませんが、プリント数が定められているエディションならば、ある程度将来価値が上がる可能性も。

今回は、美大に行ったプロとして、助言する立場で同行しただけでしたが、お金に余裕があったら、いろいろ見せて頂いているうちに、天安門事件で戦車の前にひとりで立ち止まった男の写真を買いたいものだと思いました。あれは、自分の道を生きる、クリエーターをも象徴しているとでも言いましょうか。

あの写真でも、およそ20万円。このお値段で、超メジャーな歴史的写真の現物が手に入るのは、正直安いと思います。

 

温泉旅行の写真が仕事で採用。プロの基本「量と質」の関係とは?

写真はプライベートだけで、年間5,000枚くらい撮るのですが、たま〜に、それをデザインの仕事で使うことになることがあります。

熱海の海沿いに建つ、日帰り温泉から撮ったこの1枚も、そんなうちの1つ。

知り合いの小さな会社のウェブサイトを作る仕事をやってまして、会社のイメージが「海」。載せる写真の候補として、おまけで私の撮った写真も送ったら、私のやつが採用になりました。こういうことがあると、じんわり嬉しいものです。

オーナーさんがヨットに乗る人で、海は海でも、「黒潮」の海の写真がイメージに近かったとのこと。色が違うのだとか。

わたしは1回カメラを構えると、最低数回シャッターを切ります。構図を少し変えたり、自分が立つ位置を変えたりなどなど、あまり深く考えずにとにかく少しずつ違うだけのカットを撮る。特に人を撮るときは、表情が刻一刻と変化していますので、さらに多めに。

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このときは9枚撮影。いらないものが映り込まないように苦労したことがわかります。このうち1枚を色補正しました。

デザインの巨匠チャールス・イームスが語った「わたしのデザインの『秘密』」を思い出します。まず100のアイデアを出す。その中からベスト10を選び、それぞれ100個のバリエーションをつくる。納得がいくまでひたすら繰り返せば、勝手に良いものが完成するということ。つまり、秘訣なんかなくて、量の努力に過ぎない、というニュアンスの話。

プロはたくさん作り出した中から、ベストな1つだけを選んで世に出しています。一般の方は、完成形しか眼にしないので、アート系の仕事をする人は1発で傑作を作り出していると思っているようですが、裏側は結構地道な作業。

写真ひとつにしても、日常的にたくさん撮っているから、失敗もしまくって、打率が上がっていきます。これもまた努力あるのみ。

プロは量が勝負。量がともわない品質は存在しない!

・・・と書いといてなんですが、わたしも、まだまだ量が足りませぬ。精進しまふ。