アマゾンジャパンの「Kindleストア」で、この国の本は激的に安くなる

いまにも出るぞ!出るぞ!と言われ続け、いつまでたっても始まらなかった、Amazonジャパンの電子書籍販売サービス「Kindleストア」が、本日 2012年10月25日、ついにスタートしました。

さっそく、覗きに行ってみたら、電子版書籍の値段を見てビックリ。

うぉっ、どれも紙版より安いじゃないの!!

日本のKindleストアの価格設定を見ると、例えば、紙版が定価714円の漫画「テルマエロマエ 第1巻」がKindle版だと215円(70オフ!)。最近ベストセラーになっているビジネス書「ワークシフト」は、定価2,100円が1,500円と30%オフになっています。

アメリカの書店だとベストセラーコーナーに並ぶ本は、だいたい数割引で売っています。日本で新刊本が値引きされるというのは、わたしにはやっと同じようになったかという気分です。

日本の新刊書籍や雑誌は、独禁法で「値引きが禁止」されてきました。この国では、大手出版社がアクセルとブレーキを同時に踏み続けたせいで、電子書籍がぜんぜん普及していないですから、事実上、日本のすべて新刊本は、定価で売られるもの、というのが相場です。

昨日までは。

消費者として激しく頭にくるそういう状況も、おしまいとなる可能性がでかいと思われます。

法律により製造者が決めた「定価」で売らなければならない商品という、消費者としては意味不明ものが、今も存在します。日本の公正取引委員会が名指ししている商品たちで、新品の書籍、雑誌、新聞、音楽ソフトなどの著作物商品がこれにあたる。なぜかDVDなどは入っていません。1997年までは化粧品や医薬品も含まれていました。本は、最後までしぶとく残っている指定商品の一つということになります。

そうすると、電子書籍も「定価で売らなければならない」という制限にひっかかりそうなものですが、調べてみると、制限のあるのは「物」の商品に限るのだそうです。

つまり、電子書籍は、アマゾンのような小売り業者が、好きなように値段を付けられるというわけ。今後、なしくずし的に、紙の本は定価でないと売れないという制限も崩れていくかもしれません。そりゃ人間、機能がほとんど同じなら安い方を買いますからね。

そんなうちの一人であるわたしは、ここ数年、アメリカのアマゾンからKindle電子版の洋書をたくさん買ってきました。

いつでもどこへでも持ち歩ける便利さや、欲しいときに瞬時に手に入ることじゃありません。そんな程度のことでは、私の買う和書・洋書トータルのうち、3/4までもがKindle版になったりはしません。

決定的だったのは、「明らかに安い」ということ。

注目していただきたいのは、「安い」ではなく「明らかに安い」という点です。紙版とKindle版のどちらを買おうか迷う余地がないほど安いものが多い。やはり本は紙で読みたいというような理屈は、値段が同じならという前提があるわけで、値段が半額となると信念もグラグラになる。

米AmazonのKindle本は、一部の売れ筋の本だと、紙版と比べて半額で売っているものすらある。多くの本も、少なくとも数百円程度は安い。くわえて、米アマゾンから買うと、日本までの数千円の送料もかかってしまいます。

いまでは、読みたい洋書があると、なにはともあれ、まずはKindle版があるかどうかをチェックのが習慣になりました。

金の沙汰と、そしてポルノは、人の波が流れる方向を変える巨大なモチベーションになる。新しいテクノロジーが普及する大きな要素です。

最近では、東京の本屋に立ち寄って本を手に取ったときも、原著が英語の場合は、ポケットからiPhoneをひっぱりだし、アメリカのKindle版だといくらかをチェックしてから、安い方をその場で購入するようにしています。紙の本ならそのままレジへ、Kindle版ならその場でiPhoneから購入手続きするか、試し読みサンプルをダウンロードします。

この経費削減ワザは、日本語と英語がどっちもサクサク読める人にしか使えなかったテクニックでしたが、それも、今日から少しづつ変わっていくでしょう。日本の本もKindleの方が安いとなると、和書にも通用するようになる。

日本のKindleストアは、和書5万冊からスタートだそうですが、売れるとなれば多くの出版社がKindle版を投入するでしょう。ぜひとも、そうなって欲しいところです。

 

私のたくらむ「出版社らしきもの」阿部書店

次は何をやるの?と聞かれる度に、「おれは出版社やるっ!」と、息荒く叫んできました。

書くことは大好きで、デザインの仕事をしながら、ときおり雑誌に寄稿させてもらいました。自分の考えを文章にして伝え、沢山の人たちの行動が変わるという知的快感。NYで美大生をやっていた90年代後半にネットが普及し始めた頃、マンハッタンのアート・デザイン情報を発信するウェブサイトを始め、それがきっかけで日本のデザイン雑誌に書くようになって以来、その喜びにはまりました。

ここ数年は、iPadが発売されて電子書籍がブームになったので、ついに物書きだけで食って行ける時代の到来かと興奮したものです。紙の本も格好いいから出したいなぁと、妄想を膨らみます。

去年までは、企画・デザインした商品を自ら売るという、デザイナーとしては珍しい経験をしたこともあって自信もついたので、出版社を介さずに自分で書いて自分で売るという、単純明快な商売をはじめようと考えました。言うなれば、ライター産直の、独り出版社。これからは多くのものが直販に変わるという未来を、肌で感じたこともあり。

ところが、具体的に準備を始めてみると、本を書くというのは地道で時間のかかる大プロジェクトだとわかった。大量の文章を毎日書いているプロのライターさんやスゴ腕の編集者さんと、同じ土俵で戦えるわけがないよなぁと思い始めました。私はその辺の素人さんよりは遙かにうまく書きますが、専業の文筆家ではないから、スピードや経験値では勝負になるはずもありません。

自分の最大の強みは何かなと考えてみると、日本とアメリカでの家具づくりの修行に始まった「モノ作り」だろういう結論に達しました。家具の勉強をはじめたときはたった17歳の小僧で、その後、大学で工業デザインを学び、日本に戻ってからは印刷物やウェブサイトへと仕事は変わって行きましたが、共通するのは、モノ作りという職人芸なのかな、と。

ビジネスとして大成功したいならば、競争の激しい既存の土俵で戦うのではなく、新しい土俵そのものを作ってしまえとよく言われます。そこで、アプローチを変えて、「出版物」というものを、本や雑誌のような媒体を切り口とした考え方ではなく、デザインや商品開発の視点で考えることにした。沢山の人の役に立ち行動に影響を与えるものをつくるという、自分の専門としてきたやり方で始めることにしたら、ずいぶん気分が楽になってきました。

ご存じの方も多いかと思いますが、この年末まではデザインの仕事と平行して、花屋もやっていました。「ちょっと変わった花店」というキャッチコピーの小さな事業の立ち上げです。

当時の相棒と私には人並みの花屋ができる経験がなかったことを逆手にとって、私が思いついたキャッチでしたが、お客さんは「どれどれ何が違うのかな?」と興味を持ってくださったり、賞を頂いたり雑誌や新聞に取り上げられるような、画期的な商品を考え出す原動力にもなりました。

私がはじめようとしているのは、似たような、ちょっと変わった出版社のようなものです。本日現在「謎の出版社」と書いているのは、私にもまだ正体がさっぱり掴めないからだと、ここに白状しておきますけれども…。

出版の起源を紐解くと、情報をたくさんの人により簡単に安価に届けるという、原点にたどり着きます。

わたしがやってみたい「出版社」は、メディアや手段は選ばず、アイデアや考えを伝えることを専門にするものだと、最近、やっと見えてきました。