緑茶を世界に売るネット通販のデザイン。パッケージとブランドイメージづくり

当家の相方と、世界向けに緑茶を売るネットビジネスをしてはどうかと盛り上がり、数ヶ月ほどあれこれ楽しく試作しました。去年のことです。

新しいビジネスを始めるときには、ウェブサイトやロゴマークが必要になりますから、デザイナーの助けを借りることになります。自分がそのデザイナー本人ですと、なんでも自前でつくれるので、貴重な現金を使わずにビジネスのプロトタイプをつくることができます。

仕入れて売るだけでは面白くないし、他のお店と差別化できません。私がやる意味もあまりない。そこで、オリジナル性を出すためにブレンドも試作し、緑茶自体は見た目に差が無いのでパッケージまで作ってみました。

自前のプロジェクトですと、舞台裏もお見せできますので、少しご紹介しましょう。

シンプルな試作品ではありますが、ご覧のように、買いたいという人がいれば売ることができる状態まで作り込みました。パッケージのアルミ蒸着袋から、熱で圧着する封印まで、すべて本番仕様。

コストや人件費も徹底的に計算した上でデザインしてあります。販売開始直後は、たくさんの販売数は見込めないので、初期投資や経費が少なくなるように、既製品のアルミ蒸着袋を使い、それに2つのシールを貼るビジネス初期用のパッケージデザインです。

経験上、何が売れるかは、売り始めてみないとわからないので、ブレンドの種類を多くする戦略を考えました。そうすると、最初から大量のシールを印刷会社に発注することになり無駄にお金がかかってしまうので、当初は必要な枚数だけ自前でプリントする方向で考えました。最終的なデザインもレーザープリンタ向けに、ムラが目立つベタ塗りが少ないものに。白部分が多いシンプルなデザインは、難易度が高いので、デザイン力が問われます。

これは最初のデザインスケッチ。外国の方向けなので、和の雰囲気があるデザインをラフにつくりました。毛筆の漢字もつかっていて、あからさまにジャパニーズ。アメリカでよく見かけるタイプのアジアデザインですね。

ところが、あれこれリサーチしたところ、世界的には、緑茶は日本の製品というよりも、「ミラクルフード」として健康のために飲む人が多いことがわかりました。味もあまり好きではないのに、飲んでいるという意見もチラホラ。

そこで、よくある日本チックなイメージにはせず、真逆の「医薬品」のようなクリーンで硬派な雰囲気にしました。上は、その最初のバージョンのデザイン画です。文字メインで、色は緑茶のグリーン1色。

怪しい健康食品が多い世の中ですので、信頼感あるイメージにするため、古代ローマの書体がベースになっているTrajanという書体にしようかと思っていたのですが、たくさんテストを作った中から(上はその一部)、少しエスニックな味が出る「Diavlo」を採用。西洋圏の方にとっての日本のイメージを出しました。文字までコンサバにすると、デザインの面白みがなくなりますので。一般的に、歴史の長い書体の方が、信頼感が出ます。

最終デザイン(上)は、いろんなブレンドを発売できるように、システム化しました。パントンの色見本のように、色の帯を入れて、ひと目で中身がわかる仕組みです。ロゴマークは、茶葉をイメージする形の上に、緑の十字。

商品写真は、窓際の自然光とレフ板だけを使って、私が撮影し、色合いを医療イメージの少し冷たい雰囲気に加工しています。ここだけの話ですが、食品なので裏側の成分表示の面はよく検討してつくる必要があり、このテスト撮影時にはまだ完成していません。

緑茶に使われる空気を通さないアルミ蒸着袋は、本格的な印刷をするには最低ロット数(発注数)が多いため、大量の袋を高額でオーダーしなければならなくなるので、少なくとも立ち上げ時はシールを使えるように考えました。売れるかどうかわからない商品のために、大量のパッケージ在庫を抱えることは致命的ですので。最初のバージョンは、かならず改良の必要があって変更になりますので、リスク管理のためのデザインも必要です。特に、新しいビジネスの場合は、商品そのもののだけでなく、デザイン選定にも思い込みは禁物。想定通りにはなりません。

こういったプロジェクトの多くは、試作だけで終わることも多いのですが、陽の目を見ない試みも重要でして、後々、他のクライアントのプロジェクトで役に立つことが多いのです。マレーシアに家族で引っ越すことになり、このプロジェクトは一旦保留にしましたが、大量のリサーチをしたり、いろんな素材や加工方法に出会うことができるので、お勉強も兼ねているわけです。

それから何より、いつもお手伝いさせて頂いている、クライアントの皆さんの側の視点を持つことができるようにもなります。特に商品開発は非常に複雑で、かっこいい見た目のデザインだけでは到底売れる品物はつくれません。コスト感覚や、製造〜出荷までの工程、飛ぶように売れるためにはどんなロゴやネーミングにすべきかなど、非常に複雑な思考が必要になります。

デザイナーは、ビジネスの奥深くまで関わることは稀なので、ビジネスマンの思考も身につけられるように、自ら事業をやってみるのは大切なことです。

投稿者:

阿部譲之

主にデザイナー業。マレーシア・ペナン島在住。中学校の美術教科書に作品掲載。グッドデザイン賞受賞。十四代目伝統木工の家に生まれ日米修行→NYの美大で工業デザイン専攻しながら石岡瑛子氏のお手伝い→フリーランス七転八倒→ちょっと新生銀行勤務→ちょっと花屋→ 阿部書店(株)を設立して主にデザイン業→ 双子が産まれる → ペナン島にお引っ越し。その昔、日本のデザイン誌を中心に寄稿。ツイッター @yoshiabe