前回の「自分が2人に増えちゃった話」では、自分の他に、法人という名の、もうひとりの自分をつくれるという話を書きました。
今回は、その肝である、具体的なメリットについて書いていきます。
個人と法人という「2人体制」で仕事をすると、どんな利点があるのでしょうか?
個人か法人、税率が有利な方で税金を払える
どちらも「人」扱いなのに、それぞれ税率やルールが違うので、有利な方を選んで税金を払えるという、不思議なことが可能になります。
まず、儲かってしまっている個人営業のプロが法人化のする最大の理由のひとつである「税率の差」を考えてみます。
個人だと、収入の上昇に比例して、所得税・住民税・健康保険料の税率が高くなって行く「累進課税」です。税理士さんが書いているその筋の本では800〜900万円の収入になったら、法人化した方が良いとされています。1,800万円を超えると、半分が税金になります。
法人の場合は、収入に関わらず法人税等のトータルが35.64%で固定(現時点の実行税率)。この税率はアメリカと比べると安く、他の先進各国よりも高い部類とのこと。1/3というと多いように感じますが、個人でも税や健康保険の合計で、そのくらい払っている人はざらにいるはず。社長=自分に払う給料の額は1年に1回は変えられますから、法人と個人にいくらずつの申告所得を割り振るかを、調整することもできます。
わたしが法人をつくる前は、この税率の差が節税に関係がある最大の要素だと思っていたのですが、実は、次の要素が予想外に巨大なことがわかりました。収入が増える前に法人化するのも、十分ありです。
経費として認められる範囲が、個人と法人で違うという怪
法人化した方がよいかどうかを論じるとき、税率の話だけが注目されるので、儲かっていない仕事人は株式会社にしてもメリットがなさそうだと思っている人が多いかと思います。
わたしもそう思ってました・・・が、さんざん勉強した結果、もっと大切なものがあることがわかりました。それは、経費のルールの違いです。
実は、法人だと経費にできるお買い物の範囲が、遙かに多い。
法人で無いと落とせない経費には、社員(=社長)へのあの手この手の福利厚生(現物支給や夜食、慰安旅行代など)や、長距離出張のご褒美に非課税で現金を支給できる「出張手当」まで盛りだくさん。
仕事に使う車や自宅兼仕事場は、個人営業では私用で使う時間分は個人で負担することになるので、一部しか経費にできませんが、法人名義だと購入からローンの利子、維持費や車両税・車検代まで、すべて経費にすることができます。
車よりもさらに高い不動産の購入も、法人の方が有利とされています。自宅を法人名義で購入し、社宅として自分に貸し出すことができるわけですが、購入後に継続してかかる費用もすべて経費にすることができます。ローンの利子や、修繕費、固定資産税は、個人だと収入のなかから自腹で払うことになります。
土地だけは個人で所有し、建物は法人で持つと、多額の相続税が節約できるというメリットもあるらしい。建物は毎年、減価償却することによって帳簿上の価値が下がるため、数十年後に建物の価値はゼロになります。その時点で財産の少なくなった会社の株式を相続するという節税手法だそうです。土地や絵画は、古くなっても価値が下がらないという扱いなので別です。
不動産の購入になんぞ縁が無い!というそこのあなたも、仕事場の家賃くらいは払っているでしょう。
法人の本店登記住所を自宅にすると、少なくとも家賃の50%を経費にできます。個人で自宅営業の場合は、水場などの共用部分を一切除いた、仕事専用の部分の面積比率しか経費にできませんから、多くても1/3くらいが限界ではないでしょうか。
逆に、個人の方が有利なものも少しだけあります。それは接待交際費。
個人だと営業活動に関係あれば無制限に使えますが、法人にすると1人1回あたり5,000円まで/年間600万円の上限、しかも90%までしか経費にできないという制限があります。資本金1億円以上の会社となると、接待交際費は一切経費にできなくなっています。大企業の人が、最近ぜーんぜんおごってくれない理由はこれです。高い飲み食いが好きな人は、個人事業の方が有利な場合もあるかもしれません。
私のここまでの勉強と経験では、経費にできる幅は、法人の方がだんぜん有利で、個人事業のときよりもかなり多い金額を経費にすることができています。少し勉強が必要で頭は使いますが、その価値は十分あるかと。
法人と個人で、経費を二重に落とせるという奇妙な話
お仕事をした報酬は法人が受け取ることになり、そこから様々な経費を差し引きます。残った金額の中から、電卓片手に法人税の予想額をにらみつつ、唯一の社員である自分に対して払う給料の額を自分で決めて払います。
自分で自分に給料を払うという、1年弱やってもまだ違和感のある毎月の光景です。
さて、そのお給料。社長さんがもらった金額ぜんぶが課税の対象になるわけではありません。「給与所得控除」というものを差し引くことができます。お勤めの方なら、正体不明とは思いつつ、聞いたことはあるでしょう。
これが、個人営業の人が株式会社を持つ上で非常に重要なのです。金額も大きい。
サラリーマンでもスーツや靴を買ったり一定の仕事のために経費が発生しているでしょ?という、政府のあたたかい配慮により、「勤め人のための見えない経費」を引くことができるのが、給与所得控除です。
例えば、社長である自分自身に支払う給料の年間総額を、控えめに300万円にしたとします。これは法人としてあの手この手で経費を吸い尽くした末の残金です。
ところが、ここから更にサラリーマン控除を引ける! 300万円の1/3強にあたる「108万円」が給与所得控除になり、192万円にだけ税金がかかります。これが個人事業だと、経費を差し引いた残高である300万円がまるごと課税対象に(青色申告でも、収入に関わらず65万円の控除の限界が)。これだけで10万円単位の税金の差です・・・。
1人で設立したマイクロ法人を持っていると、いわば二重に経費を載せられる形になるというわけです。
2人の「人」の間でお金をやりくりできる
仕事の報酬を個人で受け取ると、その時点で、どうにもごまかしようがありません。移動する先が、他人しかありませんので。
法人を持っていると、受け取ったお金を、会社と個人にどうやって分配するかを決めることができます。
個人としての自分に、法人から払う給与の額も、意図的にコントロールが可能です(社長の給料は、1年に一回だけしか金額を変えられませんけれども)。
法律上は、個人と法人は、まったくの別人なので、お金の貸し借りもできます。
クレジットカードをつくったり、ローンを個人で借りたいときは、信用を上げるために個人の給料を増やし、法人で融資を受けたいときは法人収入を増やす、ということもできるようになります。
連帯保証人無しで、家や事務所を借りられる(理論上)
個人で家を借りるとなると、自分が「借り主」になり、親に「連帯保証人」になってもらいますよね、普通は。
法人で借りる場合、借り主は法人、連帯保証人は社長個人という、奇妙なことも可能になります。あくまでも法律上は2人ですので。
大家さんが承諾の上という前提はありますが、事実上、連帯保証人が不要というケースもありうる。私はまだ実践していませんが、近い将来経験することになるかと。
勤め人じゃなくてもクレジットカードが作れる(理論上)
個人営業で苦労することの筆頭は、新しいクレジットカードをつくるときです。
カードというのは「安定した収入のある勤め人」を対象にしている金融サービスですから、個人営業の人には簡単には発行されません。収入がジェットコースターな人の返済能力は正確に計ることができませんのでね。私だったらそういう人の申し込みは却下するでしょう。
さて、自分の法人を持っていると、オーナーである社長は給料を貰っている勤め人ですので、少なくとも「勤め先」を書くことができる。収入も、自分で決めた人聞きの良い金額にしてあれば「安定した収入」をクリアできます。
法人の年商や従業員数なども審査の対象になるでしょうが、少なくとも、単なる個人のときよりは条件を多くクリアできます。ちなみに「従業員数」というのは、皆さん勝手に正社員数のことだと思っている方が多いですが、法的定めはなく、各会社独自のものなので、アルバイトや非常勤のお手伝いさんまでカウントしても構わないらしいです。要するにお金を払った人に人数。
勤務事実の確認電話がカード会社からかかってきて、自分が出るというのも、なにやらきもちわるい光景ですが・・・。
個人営業だと住宅ローンもNGなことが多々ありますが、同じ理由で有利になるのではないでしょうか。
個人を守る砦を持てる
人生、不足の事態はどこかで必ず起こります。事業でなにか大失敗をやらかしたり、外注費を払えなくなって、多額の債務を背負うこともあるでしょう。
個人事業の場合、当たり前ですが、その全額を個人として背負うことになります。払えなければ自己破産でもするしかなくない。
株式会社は「有限責任」というルールなので、株主=自分には、債務の責任がおよびません。
たくさんの人からボコボコに怒られること必至ですが、会社をつぶせは、それでめでたくおしまいです。借金などの場合、社長が個人として連帯保証人になっていないことが条件になりますが、法人という楯で身を守ることができる状況は多くなります。
節税のことをメインに書いてきましたが、あぶない現代ことがあふれかえる現代。個人としての活動は、社会への露出やプライバシー面、法律上においても無防備な状態です。
法人と個人という2人の自分を使い分け、リスクを引き受けてくれる身代わりを持つ。身を守る手段として、「影武者」としての法人を使って生き抜くのもありではないでしょうか。