歩くデザインの歴史。海老原嘉子さん、NYよりご降臨。

ニューヨークの美大時代に、石岡瑛子さんや、デザイン雑誌の仕事を紹介してくださった海老原嘉子さんが、四ツ谷の事務所においでくださいました。

15年以上ぶりの再会でございます。

ニューヨークを訪れる、日本のデザイン関係者の多くがお世話になっている神のようなお方で、かの地の美術館のパーマネントコレクションになっているデザイン作品の多くは、彼女の紹介を通して収蔵されています。MoMA(ニューヨーク近代美術館)にある、大量の日本のデザイン雑誌も、もともと彼女のコレクションだったもの。学生時代によく見せてもらっていたあの巨大本棚をまるごと寄贈したとのことです。

わたしが美大の授業の後に彼女のSOHOのギャラリーに寄って、仕事をお手伝いしたりしたのですが、その頃の会話とまったく同じエネルギー。20年以上前とまったくキャラも見た目も変わっていない。

「阿部くんも当時のままね」と海老原さん。そろそろ80歳なのに、すごいエネルギーなんです。私が負けそうな勢いのバリバリ現役仕事人です。

実はメールでは「阿部さん」だったんですが、うちの玄関を開けた直後から昔のまんまの会話で、あっという間に当時の「阿部くん」に名称戻りました。その方がしっくりきます。

うちに寄る前は、同じく四ツ谷にある故・柳宗理さんの事務所で、打ち合わせだったようで、巨匠・柳さんの話も出たのですが、なんと海老原さん、若い頃は、超イケメンの柳さんのかっこいいスポーツカーでよくデートしていたらしいです。

文字通り、歩くデザインの歴史。

ペナン島から日本の書店の販促物をデザイン。Discover 21刊「基本は誰も教えてくれない日本人のための世界のビジネスルール」

ベストセラーを連発する編集オネーさん・石塚理恵子さんと銀座で飲みました。年末年始に日本に戻っているときのこと。最近よくあるパターンですが、ツイッターで知り合いました。

そのときに、いつかお仕事しましょうよぉと話していたら、早速ご依頼いただきました。

お手伝いしたのは、青木恵子さん著「基本は誰も教えてくれない日本人のための世界のビジネスルール」の書店販促物です。ディスカヴァー21刊。さっそく重版がかかったそうで、よく売れているとの速報。

NYに住んでいた私でもビビるネタ満載ですので、そりゃ売れるでしょう。

デザインを作るにあたり、ゲラに眼を通しましたが、浮世離れしたニューヨークの天上界を知る人が書いているので、ぶっとんだ本かと思っていたのですが、非常に硬派な語り口と内容が好印象でした。NYのレストラン界で知る人ぞ知る、故ロッキー青木さんの奥様が著者です。

ところで、日本の書店で使われる看板やPOPを、はるかかなたのペナン島でデザインしているとは、ご来店の皆さん、夢にも思わないでしょうね。うっしっし。

本屋の店内は、たくさんの文字や写真・色が溢れかえっているので、凝ったデザインは逆に目に留まらないのだそうで、単体ではシンプルすぎるように見える仕上がりに。たくさんのバリエーションを作った中から選んだ案を、何度も東京とやりとりして磨いています。

冒頭の画像は、つくったもののひとつで、実際に書店でつかわれている看板です。

どのくらいの距離から見られるものなのかによって文字のサイズや要素の数を決めたり、隣に並べられる商品本体との兼ね合いも考える必要があります。ペナンで作ったデータを、東京の最高裁判所の裏手にあるディスカヴァーさんにメールで送り、Skypeで話しながらその場でプリントアウトしてサイズ感をチェックしてもらったりしていると、物質伝送でも発明されたような感覚。

頂いた表紙・帯データと、指示原稿に、わたしなりのキャッチコピーを加え、チェックリスト風にして、お客様につかのま足をとめて頂くデザインにしました。

私は、かっこいいだけのデザインをつくることに興味を失ってきているので、本屋というたくさんの物が溢れかえる場所で、目を引き、何かを伝えるデザインを作るというおもしろい案件でした。

・・・が、とにかく、スピードが速い!

ペナン島でのんびり生活していて、ネット経由で日本のメジャー出版社さんの仕事をすると、ペースの違いを実感します。刺激的なお仕事でした。

事業アイデアの実験パート2 『ABESCORE by 阿部書店』世界のすべてを格付けするサイト。これは化けるか?!

アイデアは形にしないと良いかどうかわからない!・・・をモットーに、アイデアを短期間でプロトタイプにしていく取り組みの、第二弾を公開しました。

第一弾の『OUTLET(仮称)』は、ちょっと商売気が出過ぎていることがわかったので要検討モードなのですが、作ったシステムが流用できそうだと気づき、書いたプログラムを流用して次の「ABESCORE」のプロトタイプを作りました。そのため製作時間は数日。1つ作ったものが、予期せず別のアイデアの実現につながるというのはよくあります。

現物はこちらをご覧ください→ ABESCORE by 阿部書店 >

例により、本来は内輪だけで見るべきものを公開しちゃいましたので、そのおつもりでご覧くださいませ。スコア評価はある程度精度が出ていますが、暫定的なものです。

なせスコアリング事業か?

もともと、いろんなものにアワードを授与するサイトをやれないものかと、数年前からあたためていました。アワードを出すには、ますスコアで評価するのが先かと思いまして、スコアリング・サイトからスタートしようと思ったわけです。アワードの話は過去のブログにて >

この世の中には難解なものが多く、人によって好みや価値感も様々な時代なので、何かを選ぶのは至難の業です。信頼性の高い客観的な情報を集めて、それらをもとに、われわれの独自の計算式でスコアを出すという試みです。

プロトタイプを見るとわかりますが、カメラのような身近なものから、政治や国のような評価が困難で、誰も実体が把握できていないものまでを扱いたいと思っています。完璧な評価方法を作るのは不可能なので、評価の精度だけでなく、創造的な切り口で点数をつけることも考えています。

知人と古典自己啓発本を評価してみる予定もあり、評価指標を検討中。ブログ記事や、形の無いものまで、可能性は無限にあると感じています。

わたしとしては、ありとあらゆるものをスコアリングしてみたい、そんな夢があります。

「日本人が移住しやすい国」で試算スコアリング

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試しに「日本人が移住しやすい国」というランキングを作ってみました。生活物価から政治の安定度まで、10の評価項目をABC評価。各項目に5点を配点し、全項目をプログラムで合計。そのままだと、40点満点なので、100点スケールに自動変換して総合点を表示しています。

サイトのプログラミングとデザインは私が担当、嫁がリサーチをやってくれました。ABC評価の元は、信頼できる生データなどをネットで探したものをベースにしてます。

近い将来、単なる合計計算ではなくて、特定の評価項目に重きをおいたフォーミュラにしたり、読者の投票も加点したりといった、複雑な計算を導入したいと思っています。

こうやって形にして、いまのシステムの問題が見えたので、サイトの設計をしなおし、プログラムを全面的に書き直す予定です。Wordpress、Advanced Custom Fieldプラグイン、PHPによるカスタムコーディングで作っています。

わたしはいまマレーシアに住んでいますが、こうやって具体的な数字にしてみると、各国を調べるきっかけるとしては「あり」だと思いました。数字化するという試みの感触は非常に良い。知人たちの反応も非常に良好。

悪名高きワイン評論家の100点評価

インスピレーション源のひとつは、ワイン評論家として有名なロバート・パーカー氏の「パーカーポイント」。ご存じの方も多いでしょう。

味の評価は特に難しいもののひとつですが、彼が100点満点のスケールであらゆるワインを評価し始め、世界中のワイナリーが彼の好みに合ったワインを作るまでになってしまったという、恐ろしい影響力のスコアリングシステムです。高得点を取ると、値段が高騰したり、瞬時に売り切れるとのこと。

私はワインの専門家ではないので、パーカー氏の舌の性能に関する議論はここではしませんが、わかりにくいものを数字で見えるようにしたこと、ワインの世界をひっくりかえしてしまう程の影響力も持つに至ったことは、すごいことだと思っています。モノゴトをひっくり返す人は避けて通れない、激しい非難も浴びているようですが・・・。詳しくは「The Emperor of Wine」という伝記書に書かれていますので、興味の有る方はぜひ。知的エンタテイメントして非常に面白い本です。

「アベスコア」というネーミング

名前はシンプルに「アベスコア」としました。自分の名前をつけるのもどうかと思ったのですが、こざかしいベンチャーのようなネーミングはキモイですし、やるならば自分が看板になることは間違い無いので、入れてしまいました。結婚して阿部コンビになったので、アベと言っても2人のことになりましたしね。夫婦揃ってリサーチが大好きなので、天職かもしれない。一緒にできる事業をやろうという希望もあり。

英語のスペルが「ABE」なので、「ABC」評価と字面が似ているのも、ユーモラスでしょ?

グッドデザイン賞の看板背負って、台湾の展覧会×2に出品

すこしまえの2012年の8月初旬。グッドデザイン賞を運営している財団からメールが届きました。

何事かと思って読んでみると、秋に台湾で行われる2つの展示のために、私がグッドデザイン賞を受賞した作品を、貸して頂けませんか?という打診でした。

こういった協力は、ほとんどの場合、宣伝効果の見返りに、お金と時間はこちらもちとなります。もう売っていない商品なので、ビジネス上のメリットはまったくありません。ちょっと悩みましたが、いまの相方にも意見を聞いて、まあ、海外の展示会に出品したという箔はつくので、協力して差し上げようかという結論に。

なにせ打診された主旨が主旨ですしね →「グッドデザイン賞受賞デザインの中から、近年の日本のデザインシーンを分かり易く伝えるセレクションを行い、緻密で成熟した日本のデザインを紹介」きわめて光栄です。

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この「はなてがみ」という受賞作は、一輪の花を郵便で届けるというサービス。2010年に、わたしが当時のパートナーとやっていた花屋のために作ったもので、いまではデザインが変わっており、受賞バージョンは販売されておらず現役ではありません。もうひとつの問題は、生きた花も一緒に貸し出すわけにもいかず、紙パッケージだけの出品になってしまう。その旨、お伝えしたところ、それでも構わないということでした。

受賞時のグッドデザイン賞の審査会用につくった、横長のプレゼンパネル(上画像)もデータを残してあったので、簡単に英語版でも作りましょうか?とご提案したところ、非常にありがたいとのこと。日本人でも意味不明の商品ですので、わかりやすく書き直しました。台湾の人向けにやさしい英語にて。パネルを作るのはちょっと金がかかるなぁーと思っていたら、台湾現地で出力できるのでデータだけで大丈夫とのこと。(印刷業界のマニアックネタですが、二重トンボは日本だけなので、海外用には1本トンボで納品です)

当時のパッケージはもう手元に無いので、展示用の3本+予備数本を手作業で再現することに。紙の大御所・(株)竹尾さんのネットストアで少量オーダー。当時使っていたオリジナルの紙がちょうど在庫切れで、近い色のものを入手しました。違う色と言っても、リサイクル系ナチュラル色の紙なので素人眼にはまったくわからないですけどね。紙パケの展示は、来た人が触りまくってよれよれになるので予備が必須です。

2週間後に横浜の倉庫からまとめて台湾に送られるそうで、大急ぎで準備。たまたまその頃に、わたしは台湾1泊経由でベトナムに休暇に出かけるところだったので、早めに梱包して出荷しました。展示会よりも1ヶ月ほど前に立ち寄った台北で、ほー、この街のひとたちが見に来るのかぁと思いをはせてみました。

私の推測ですが、打診が来たのがちょうど夏休みの時期だったので、協力できる受賞者を探すのに苦労なさっていたのではなかろうかと。私は基本的に個人営業なので、フットワークが軽いのが取り柄ですので。

さて、展示会が終わった頃、担当の方から、大量の写真が届きました!

ぬおっ!現地の若いねえちゃんが、うちのあれを手にとって見ているではないか!

出品しただけでおしまいかと思っていたら、丁寧に会場の写真も撮ってくださった上、展示会の報告レポートも添えてありました。さすがグッドデザイン賞の母体、隙が無い。参加してよかったです。

写真を載せる許可を頂きましたので、一部ご紹介します。写真のご提供は、天下の公益財団法人日本デザイン振興会・劉 夢非さまです。

 

2012 TAIWAN DESIGN EXPO(台湾・高雄市)

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こちらは高雄市で行われた「2012 TAIWAN DESIGN EXPO」の会場。グッドデザイン賞の展示は、世界各国のデザインを展示するInternational Design Pavilionにて。倉庫街をリノベーションしたアート系施設らしいです。

8121422096_26b05e42ca_b開場前の風景。大量の作品を持って行ったのかと思いきや、以外と少ないですね。

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すごい混雑。台湾はApple製品をはじめとする世界の電子機器の産地としても有名ですので、プロダクトデザインには注目が集まるのかもしれません。私が台湾に立ち寄った時に気付いたのは、日本ブランドの店がそこら中にあること。ファミマ、クロネコ、ビアードパパなどなど。ものすごい親日な国なようなので、日本コーナーは混雑していたのかも(想像)

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日本コカコーラ様の緑キャップボトルの受賞作「いろはす」の左となりが、うちの子です。おお!ガン見されとる。まあ、意味不明の商品でしょうからね、なんじゃこりゃ?という感じですかね。デザインした本人はいたって本気ですが。

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なんと、スタッフの方が花を調達して、中に入れてくださったようです。会場の写真を見るとパネルまで提供したのはうちくらい。そのせいか、お礼に下のような写真も沢山撮ってくださった?(妄想)

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台湾国際文化創意産業博覧会(台湾・台北市)

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ところ変わって、こちらは同じく台湾の北部、台北で行われた「台湾国際文化創意産業博覧会」のグッドデザイン賞ブース。イベント名からして、クリエイティブ系見本市というところでしょうか。家族連れまで来てますね。

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すごいクリエーターが持つ『直感』の正体。プロが直感で決断を下せる理由

デザインの巨匠が口を揃えて、デザイナーの卵たちに言う定番の言葉があります。

「直感を信じなさい。」

私も、美大時代にさんざん聞かされてからというもの、この言葉を信じて仕事をしてきました。ほんとに鵜呑みにして大丈夫なのかなぁ、という一抹の不安を感じつつ。

ところが、あるお堅い本によれば、直感というのは、自分の過去の経験すべてから脳が瞬間的に感じ取るものらしい。第六感的な神がかったものかというと、そうでもない。

人間がどうやって決断するのかを科学的に分析した「Sources of Power: How People Make Decisions」という本に書かれている、この説が正しいとすると、早い話がこういうことになる。

直感を武器に仕事できるのは、連戦錬磨のベテランのデザイナーだけ。

「直感を信じろ」というセリフを私に話してくれたのが、ほぼ全員、超一流の人気デザイナーだったことから考えると、これは正論です。

よく観察してみると、直感を!・・・と言っているスゴ腕のおっさんおばさん達は、毎日地道に勉強を続けているし、新しい仕事となれば、大量のリサーチをする。

あの人たちは「直感を解読する技術」も身につけているに違いないと思っています。直感というのは、形がなくて雲のようにモヤモヤしている「気分」のようなもの。頭の中にどんな形の雲が現れたら地震が来るとか、雨が降るとか、場数を踏んでいないと判断しようがない。作っていて、どんな気持ちになるデザインがうまくいくかは、失敗と成功を様々に経験したからこそ選べることなのではないかと。一流のプロ達でさえ、陰では失敗作を連発しているのを、私が見てきたから、そう思うわけですが。

さて、私が今、若い人にアドバイスをするならば、こうなります。

「膨大な量の経験を積み重ねろ。そうすれば『直感』を信じられるようになる。」

「何歳までなら天職探しをしていいのか?」 — 石岡瑛子さんから聞いた仕事論

ロサンゼルスから、恒例の年賀Eメールが届きました。

MITメディアラボ出身のロシア人デザイナー、ニキータ氏より。ちょうど同じくらいの歳なので、お互い気がついたらいい年齢になっちまったねえ、とか書かれた中に、最近すっかり忘れていたことが書いてあった。

「君の親方によれば、35歳超えたら本気にならんといかんという話だから、俺たち、もう数年も過ぎちゃってね?(笑)」

そういや、当時の親方・石岡瑛子さんはそんなことを言っていた。

金はいらんので話を聞かせろ!というお手伝いの条件に、彼女が律儀に応えてくれたなかで聞いた仕事論の1つ。対する私は20代前半。

この話は、印象に色濃く残っているものの一つです。正確には、35歳ではなく「40歳」がリミットだそうですが。

「40歳まではいくらでも迷っていいし、むしろいろんなことを経験した方がいい。でも40歳になったときに、一生を捧げる自分の仕事が定まっていないといけない。後は、がむしゃらにそれをやる。」

この話を聞いた私は、意外とのんびりでいいんだなぁ、と思いました。

20年間試行錯誤して、そのあと70歳くらいまで現役バリバリで仕事をし続けるとして、活躍できるのは、たったの30年くらいの期間しかないじゃん!と。

石岡さんからその話を聞いてから、もう15年ほど経ちました。四十までの猶予期間は意外と短かった。ほんとに、あっと言う間。

私は、人並みの10倍くらい迷走した、どアホ男です。

意図してそうしたわけではなくて、興味のおもむくまま、優柔不断に生きてきたら、自動的にそうなりました。

木の家具作りの修行から始まって、工業デザインを学び、ウェブデザインやグラフィックで稼ぐようになり、ライター業もやり、銀行や花屋に足を突っ込み。脈絡なく手を出してきた。

そんな、ちぐはぐなキャリアを経て、いまの実感はどんなものかというと、これだけははっきり言えます。

人生、無駄な経験なんぞ一切ない。

1つ例を挙げると、高校生のときに私が年賀状配達のバイトをやらなかったら、「郵便で花を贈る」サービスは思いつかなかったわけです。あのときの純朴な彼は、20年後にグッドデザイン賞をもらうためのノウハウを身につけ中なう!・・・などと想像することすらできるわけもなく。

飲食店でのバイトなら接客技術が身につくし、ティッシュ配りなら受け取ってもらうための売り込み能力が身につく。こういう種類の経験は、どんなビジネスでも必要になる、オールマイティにつぶしの効く経験です。

今思うと、学校を卒業したばかりの若者が、一生を捧げる職業を選ぶなどということは、無茶ですよね。選択肢すら洗い出せていないから。自分に合っている職業の存在にすら気付いていない。

だから、若いときは、何も計画なんかせずに、飛び込んできたおもしろそうなチャンスに飛びついていけばいいのです。理由はいらない。とにかく、たくさんの種類のことを経験するのが正しい。

自分の究極の職業なんてものは、世界的な仕事人でも40歳までわかるものではないらしいですから。

 

ウェブデザイナーのために産まれた『PhoneGap』 ド素人でもできるiOS & Androidアプリづくり

ウェブサイトを作れる人なら、ちょっと勉強すれば、iPhoneやiPadはもちろん、Androidのアプリも作れる。

そんなステキなもののお勉強、はじめました。

ウェブデザイナーとアプリ開発の橋渡し役

「PhoneGap」(フォンギャップ)は、その名のとおり、スマートフォン向けのアプリをつくるときに特有のギャップ=「溝」を埋める目的で作られたフレームワークです。

平たく言うと、ソフトを作るためのソフト。

ただいま準備中の阿部書店では、いきなり紙の本を大量に売り出す予算とネットワークは無いので、最初は小さめの電子ブックをドンスカ発売するつもりです。無料・有料を織り交ぜて。

そこで電子ブック程度の紙芝居的なアプリ制作には必要十分な、これを勉強してみることにしました。

PhoneGapは、ウェブデザインならできるあなたを、次のようにサポートしてくれます。

埋まるギャップ その1:ウェブデザイナーならアプリをつくれる

PhoneGapが埋めてくれる溝は2つあって、1つ目は「プログラミング能力」のギャップです。

ブラウザーだけで見るウェブサイトと違い、スマートフォンやMac・WindowsといったOS上で動く「ネイティブ」ソフトの開発には、それなりのプログラミング経験とお勉強が必要です。

実際にやってみるとわかりますが、ド素人やウェブデザイナーには、この壁は極めてぶ厚く、そして堅い。私はウェブ上で動くプログラミングなら少しは自信がありましたが、途中で挫折し、インドの開発会社に「Life Aid Kit」というアプリの制作を20万円で外注したりもしました。

PhoneGapのはじまりは、ずばり「ウェブデザイナー達でもアプリを簡単に作れる」ようにするという目標だったといいますから、まさに世のウェブ屋さんにぴったり。

HTML5、CSS3、JavaScript。この3つを使いこなせるプロならば、PhoneGapさまのお助けにより、正当派アプリ開発に比べ、極めて短い勉強時間でアプリを作れます。

PhoneGapが提供するスマートフォン機能(カメラ、加速度センサー、アドレス帳、ファイル保存、メディアなど)を使うためのコマンドを覚えればOK。

レベルの高い方なら、ブラウザーで動くテクノロジーを組み込むこともできるので、jQueryやjQTouchのような、JavaScriptフレームワークを使うこともできます。

ギャップ その2:iPhoneとAndroid版をいっぺんに。全7種のクロスプラットフォーム対応

二つ目のギャップは、異なるスマートフォンOS向けに同時に開発するという、絶壁。

iPhoneとAndroidではプログラムの書き方が全く違うので、自分で作ろうということになると、かなりの時間をかけて両方の勉強をしなくてはならなくなります。

プログラミング専門家でもない仕事人に、そんな時間があるはずはざぁない!

ソフト開発の世界は刻一刻と変化しているので、集中して勉強したらおしまい、というわけにもいきません。一度手を染めたら、終わり無き旅路となることをお覚悟くださいませ。

PhoneGapを使えば、基本的には1つアプリを作り、変更を少々ほどこす程度で、iPhone/iPad、Android、Windows Phone 7、BlackBerryといった主要なスマートフォンすべてのアプリに書き出すことができます。

スマートフォンに内蔵されているウェブブラウザーで表示できるサイトを、ひとつのアプリにして、さらにカメラや加速度センサー・ファイル保存・簡単なデータベースといった機能を使えるにようにしたものなので、違うOSでも同じ結果を得やすいというわけです。

当然のことながら、通常のウェブサイトと同じテクノロジーで作っているので、パソコンや、スマートフォンのブラウザー向けにも公開できます。

さらに、驚くべきことに、AppleやGoogleが提供するSDK(アプリ開発のための専用ソフト)を使わなくても、ネイティブアプリへの変換をすることが可能です。スマートフォン対応させたHTMLデータ/Webアプリを「PhoneGap Build」というクラウドサービスにぶちこむと、7種類のプラットフォーム向けに書き出しが可能です。

どの程度のアプリまでPhoneGapでいけるか?

すんません、まだ勉強中なので未知です。

とはいえ、JavaScriptでつくれて、スマートフォンの基本機能やデータベースを利用する程度なら、まず全部実現可能でしょう。

複雑な機能の部分だけは、難しい書き方のプログラムを書き足して補うということもできるのだろうと想像。派手なグラフィックや、OSの細かい機能へのアクセスが必要なアプリは、現時点では難しいと考えておいた方がよいでしょう。

私の用途では、電子書籍+αまでは自前でPhoneGapを使って作り、それ以上は、去年のようにインドに発注(または少し高いけれどもレベルが高い「東欧」)する手法で行く予定です。

期待できる将来性。Adobeが買収、ソースコードはアパッチ財団へ寄付

スマートフォン向けの開発環境は、流行り物なのでいろいろありますが。わたしが時間をかけてPhoneGapを勉強しても良いかなと思った理由のひとつは、2011年に開発元のNitbi社をAdobeが買収し、ソースコードをアパッチソフトウェア財団に寄付したこと。将来性とユーザー数の多さです。

Adobeは少し前まで、Flashで作ったソフトをアプリに変換する機能を推進していましたが、どうも、スマートフォン向けのFlashの雲行きが怪しくなってきたので、HTML5によるスマートフォンアプリ製作を推し進めようという空気がプンプン漂っています。

Adobe Dreamweaver CS5.5以降に、PhoneGapを使ってアプリ開発をする機能が内蔵されていて、CS6ではさらに便利になったそうです。ソフト内から動作チェックもでき、「PhoneGap Build」とも連携しているそうなので、あたかもSDKのようなスタイルで製作ができそう。本当に使えるのかどうかは、近く試してみるつもりです。

どこでお勉強するか? 現在のハードルは「英語」

PhoneGapは猛スピードで進化していて、アメリカの解説書でさえ出版が追いついていません。よって、ウェブデザインの能力以外に「英語を読めること」は必須条件です。解説本や、本家サイトを利用して。

日本で売られてる本の中には、HTML/JavaScript/CSSを使った独自手法のでアプリ開発の本はいろいろ出ていますが、PhoneGapを扱ったものはまともな本が皆無です。日本の専門書は、アメリカから1~2年に出る傾向にあるので、しばらく待てば、ちょろちょろ出てくるでしょう。

PhoneGapは、最新版Dreamweaverの売りの機能のひとつなので、近く、解説書の一部として登場する可能性もあります。

わたしの場合、技術系の本の多くはAmazonのKindle版を買っています。PhoneGapの勉強に使っているのは「Beginning PhoneGap」(Wrox刊)米国のAmazonでは選択肢も多いですが、前述のように内容が古いものも多く、できるだけ新しいものを買いましょう。

PhoneGapの公式サイトのマニュアルも覗いてみてください。

受賞マークデザインのはじまり。アイデアは偶然の連続から生まれる

年末に香港の空港で買った「Well Being」という本。数日前にちょっと読んで、キッチンのテーブルの上に置いてありました。

このまえ私のツイッターで書いた、「物を買う喜びは、買った瞬間が頂点で、その後消えていく。けれども、旅や勉強のような『経験』にお金を使えば、一生思い出して楽しめるので超お買い得」の元ネタ本。幸せな人生を送っている人に共通することを、科学的な大規模リサーチで明らかにした内容です。

わたしは朝食をつくると、その本の表紙をボーッと眺めながら、塩鮭をつつき、小松菜と油揚げの味噌汁をすすっていました。

陶器のような白地がメタリックレッドの円で囲われ、エンボスのかかった大人な雰囲気の書体の文字。

…これ、妄想中の出版社が主催するアワードの、受賞マークにしたらかっこいいかも。

手近なペンとプリンター紙にちょっとスケッチをしてみました。思いつきで、阿部書店のイニシャルAを、ドーンと中央に描いてみた。こういうエンブレムは、遠くからでも、小さく印刷しても読めることが大切なので。

デザインというのは、だいたいこの程度のきっかけから始まります。そして、妄想に具体的な形が与えられる。

企画が頭の中にあるときに、たまたま眼に入ってきたもの。それがインスピレーション源になることは、よくあります。

今回のような本のデザインということもあるし、電車で隣に立っていたお姉さんの服の色や、道ばたで見かけた看板ということもある。美術館で見た絵の色使いや、彫刻の形というものから影響を受けることあります。

「A」という一文字を描いてみたら、ほー、これは悪くないと思いました。それには、理由があります。

最初は私自身にも、会社にも、アワード自体にもブランド力はありません。だから、何も知らない人がパッと見たとき、瞬時に「なんかAレベルの評価をもらってる商品なのね」と、感じてもらえることが大切だろうと思ったからです。

さて。その数日後のこと。

四谷三丁目交差点のカフェで仕事を終えた、夜11時。

わたしは、のんびり歩いて家に戻る途中、業界人御用達の荒木町飲み屋街の前の横断歩道で、信号が変わるのを待ってました。すると、目の前の客待ちタクシーに「丸A」のマークが。

そこには「TAXI RANKING」とある。そんなランキングは聞いたことも無いですが、意味はすぐに理解できました。私の理屈が正しいことを実感。

こういう偶然の積み重ねの末に、素晴らしいデザインやアイデアは生まれます。必死で探しているときに限って、見つからなかったりする。

神経さえ尖らせていれば、向こうから勝手に飛び込んできます。わたしの名案は、どれもそうやって産声を上げてきました。