グッドデザイン賞をもらって思いついた、出版社が運営する「アワード」という妄想

2010年の秋のこと。たった二人でやっていた花屋が、いきなりグッドデザイン賞を受賞しました。

花屋という業態では史上初。しかも、自宅の片隅を使っている極小個人事業として。

売上げに大きな変化はすぐには起きませんでしたが、ちょっと意外だったのは、知人達の私に対する評価が突然上がったこと。口だけ達者な、アクの強い典型的デザイナータイプだと思われていましたが(実際その通りですが)、みなさん、私のことをちょっと見直したようでした。

企業に所属しない自営であるだけに、賞をもらうって大切なんだなぁと痛感しました。

公的な賞らしきものを頂いたのは初めてでしたし、自分は実力で食べているのだからそんな政治的なものに用はないと思っていましたが、花屋の時は広報予算がゼロだったのもで、かわりにグッドデザイン賞に応募してみるという別事情での出品でした。ふつうは、デザイナーは事業オーナーではないので、単独では応募はできません。この花屋の冒険では、わたしはデザイナーでもあり事業主体でもありました。

受賞してすぐに、業界系の新聞社さんから取材がいくつか来るようになった。そして、それを読んだ大きなマスメディアからの取材が来るという連鎖が起きて行きました。次第に発行部数の大きな雑誌から電話がかかってくるようになり、私がビジネスから離れた昨年末時点で、ゼクシィやAneCanに紹介され、年明けにはOzマガジンに載り、この春には元相棒がJ-WAVEに出演するまでに。

これらの全ての紹介は「グッドデザイン賞を受賞した…」という冠がついた形で紹介されました。マス媒体は、限られたスペースや時間の中で紹介をするので、たった一言で、読者なり視聴者を納得させられる「殺し文句」が必要です。デザインが美しいとか、高機能という話は、どうしても長くなってしまうので厳しい。

小さなビジネスを始めた皆さんはどなたでも経験していることですが、最初は「信用度」が大きな壁になります。大企業の看板を背負っていませんし、特にネット販売の世界では、運営者の姿や店舗が見えないので、お客さんは警戒して、なかなか最初の一歩を踏み出してくれません。メディアも、信用度が未知の小さなビジネスを取り上げるのはリスクが高すぎるので、取材もなかなか来ません。

商品やサービスは絶品なのに、お客さんも取材も来ないという、最初の悪循環を抜け出すのが、ちょっとした一苦労なのです。

これからの世の中、わたしが関わった花のビジネスや、この阿部書店のような、個人起業が急増するのは間違いありません。その流れの中で、レベルの高い商品やビジネス・活動を評価する、認証のようなものを始められないかなと、昨年から妄想するようになりました。

さて。賞の運営なんて、出版社と関係あるのかと思う方もいらっしゃるでしょう。

私もそう思ったので、デザイナーの得意技「コンセプト後付け」の術で、こじつけてみました。

つまり、ミシュランのガイドブックみたいなものを販売すれば良いのかなと。

あれは、タイヤを売るために無料で配布を始めた旅行ガイドブックが起源ですが、レストラン評価部分が異常に人気になって、いまでは有料で爆発的に売れ日本版まで出ている。良い商品やサービスを認証するという、賞のような雑誌のようなガイドブックのようなものもありかなぁと想像しています。世の中のいろんなものを評価するガイドブック。

個人や小さな会社として活動しているプロたちは、大企業がビジネスに利用する認証やアワードとは縁がありません。こういった、良いものを作っているけれども、往々にしてPR活動にうとい小さな巨人たちに、手を貸すツールを提供するのも意義があろうかと思っています。

ためしに、私が個人的に良いと思うものに賞を出すところからやってみるつもりですが、持続可能な事業としてお金のつじつまを合わせられるかは、テストをやりながら考えてみることにします。まだ、そのへんは未知です。

私自身が長年小さな自営業をやってきたこと、そして、グッドデザイン賞を貰ったのがきっかけで、こんな企画が出てきました。

人並み以上にいろんな経験をしてきましたが、どれとどれが組み合わさってアイデアが生まれてくるか、想像を絶しますね。

投稿者:

阿部譲之

主にデザイナー業。マレーシア・ペナン島在住。中学校の美術教科書に作品掲載。グッドデザイン賞受賞。十四代目伝統木工の家に生まれ日米修行→NYの美大で工業デザイン専攻しながら石岡瑛子氏のお手伝い→フリーランス七転八倒→ちょっと新生銀行勤務→ちょっと花屋→ 阿部書店(株)を設立して主にデザイン業→ 双子が産まれる → ペナン島にお引っ越し。その昔、日本のデザイン誌を中心に寄稿。ツイッター @yoshiabe