「取材しやすい」ビジネスや仕事人に共通する8つの特長

前回は、ライターよし子さんの話を例に、2つの対照的なお店の「取材しやすさ」を解説しました。

今回は、その中に出てきた要素を、ひとつひとつ説明していこうと思います。

さて、ひっぱりだこの有名人を取り上げるようなケースは別ですが、多くの場合、他にもたくさんの取材先候補がある中からベストなもの、「少しでも取材しやすいもの」が選ばれます。

例えば、私が取材しに行ったことがある、デザイナーやパティシエさん達だと、実力なんて誰も似たり寄ったりで、決め手となるのは、悲しきかな「スケジュールが空いているか」だったりするんです。それが現実。

小さなビジネスをやっている仕事人の場合も、実力なんて似たり寄ったりです。努力している人なんて、当然、みなさんレベルは高い。私の経験から言うと、多くの場合、ビジネスの実力やネタの魅力自体には、決定的な差があることの方が少ないのです。

すると、それ以外の要素で、取材先が決まることは多くなる。「取材のしやすさ」は、その中の一つです。

メディア側には、すんごいネタを発掘したいという欲望はありますが、自分たちの評判や発行部数・広告収入がかかっていますので、少しでも確実で有利なネタを選ぶ。そりゃそうです。仕事はスムースに進められるにこしたことはない。

わたしが書く側、そして、取材して頂く側の実体験から導き出した結論としては、取材しやすいビジネスや仕事人さん達には、次のような共通の特長があります。

 

取材するかどうか考えている段階で、情報が一通り手に入ること

取材先を決めるときは、編集会議でどこを取材するかを検討します。

編集さんやライターさん達が、たくさんの情報を持ち寄って比較しながら、どれにしようかを決めます。このときの情報というのは、取材候補に「連絡を取る前」に集められたもの。つまりコンタクトをとる前に、取材に値するかを決められる情報がなんらかの形で手に入らないといけません。

自社のウェブサイトなり、別の雑誌に載った記事が必要です。よほどの斬新なネタの場合は「資料を頂戴できませんか?」という電話がかかってくることもありますが、そんな気まぐれに期待しても無意味。情報はどんどん公開しておきましょう。

取材先探しには、ネットで検索して情報収集することが多くなっていますので「発見してもらう」ためにも、あらゆる情報の公開が必須です。

写真や資料といった「素材」が用意してあること

マスメディアの仕事のスピードは、びっくりするほど速いと心得ましょう。取材の打診が来てから、写真を撮ったり資料をまとめたりでは、せっかく声がかかっても取材がキャンセルになりかねません。

締め切りに余裕がある取材でも、複数の取材先をかかえている編集/ライターさんが多いので、〆切より遙か前に記事を完成させられることは重要です。

小さな記事だと、取材先から提供される資料だけを使って記事を書くことも多く、写真は提供してもらった「ありもの」を使うので、数ページの記事でないとカメラマンさんは来ません。

経歴や実績などをまとめた、簡単な「プレスキット」を用意してあるとなお可。

電話がかかってきたら、すかさず「プレスキットがございますので、すぐにメールで送りします」と返せすことができ、ライターさんの仕事を効率化できます。 プレスリリースのような堅い形式でなくて構いません。要は、情報がちゃんと整理してまとめてあればOK。

「取材慣れ」していること

テレビに出てくる有名人たちが、スラスラとインタビューに答えられるのは、能力が高いからではなく、同じことを百回も二百回も聞かれているからです。

取材「される」側にも場数を踏んだ経験が必要です。

取材慣れしていると、同じ質問を何度もされているので答えが磨かれていて、取材する側もインタビューが楽ちん。良いセリフも引っ張り出せます。必死でネタを掘り出そうとしなくても、すらすら話してくれるのはありがたいのです。

こういった理由で、特に取材先のチョイスに失敗が許されないメジャー媒体は、小さなメディアに何度も登場して実績を積んだあとの方が来やすいのです。

フレンドリーで、大歓迎してくれること

はっきり言って、取材対応をめんどくさそうにする人のところや、フレンドリーではないところには行きたくありません。

どうせなら、取材を喜んでくれてビジネスに役立ててくれるところを、載せてあげたいと思っていますし、気持ちよく仕事をしたい。

好感を持てる取材先というのが重要なのには、もうひとつ理由があります。

政治や芸能のニュース以外は、基本的に「ほめる」ものだからです。読者・視聴者の役に立つ、良い商品やサービスを紹介するための取材なのです。

ライターさん達は、良いと思えるものほど感情移入してスムーズに楽しく書けます。自分が好きでは無いものを、褒めて書くというのはものすごくつらい。

あまり取材を喜ぶと、弱みを見せることになってしまうと考える人もいると思いますが、そんなことはありません。嬉しいなら表現しちゃいましょう。メディアとのつきあい方が上手な著名人の皆さんでさえ、例外なく特大の感謝の言葉を返して下さいます。

第三者の評価があるかどうか

マスメディアは読者数・視聴者が多く、社会的影響力が大きいですから、実体のはっきりしない小さなビジネスは敬遠します。何かの賞をとっているとか、小さな媒体でも良いので何度も掲載されいると安心して紹介できます。

舞台裏やスタッフの顔が見える

取材先として決める前に、記事に使えそうなネタがありそうか、写真映えがしそうなスタッフ/仕事場かといったことの参考に、ブログやスタッフの経歴などは詳しく読まれます。

日常の活動が綴ってあると、片手間にやっているビジネスなのか、本気でがんばっているのかなども伝わってくる。取材をしてあげたら役にたててくれそうな、がんばっているところを取材したいと思うのがライターさんの心情でもあります。

ネタを洗い出して、わかりやすくしてある

ライターさん達はプロですから、どんなにしょーもない取材になったとしても、面白い記事にまとめ上げます。ですが、記事のウリとなりそうな要点がまとめてあると、分析する時間も節約できるし、編集会議で通しやすい。

例えば商品に関して言うと、この要点は、誠実にやっているとか、がんばって作ったとか、美しい/使いやすいと言った主観的なものではダメで、誰が聞いてもすぐ理解できる客観性があるのが理想的です。そういった要素がないネタは、読者が食いつく記事の見出しが書けません。

「また取材してあげたいな」と思わせること

さあ、1回目の取材が無事に終わって、しばらくすると見本誌が届いたり放送されりします。ここで喜んで、安心するのはまだ早い!

取材しやすいところには、機会がある限り何度も何度も話が来るようになるからです。

新しい商品を出したときに同じ雑誌からということもあるし、フリーの雑誌ライターさんの場合には、他の雑誌のお仕事で来てくださることも。

新しいところに取材に行くのは神経が疲れます。できることなら、顔なじみのところにまた行きたいというわけでして。

ですから、お礼のメールを送って、きちんと感謝の気持ちを伝えましょう。素敵な記事になっていたら、ライターさんを褒めてあげるとますます良い。彼らもプロの誇りをもって書いていますので嬉しくなって、また取材してあげようと思うものです。

この先の連載で書きますが、ある有名なデザイナーさんの取材では、マネージャーをしている奥様から、私が書いた記事に対する丁寧なお褒めの言葉をメールで頂いて、瞬時にファンになってしまいました。自分の書く文章にプライドのあるライター達ですから、そりゃあ、褒められたいんです。

紹介してもらったことで、お客さんが増えたり売上げが上がったら、時間が経った後でも、報告してあげると、メディア側の人たちも「ああ、私が紹介してあげたのが、役に立ったんだなぁ」と感無量です。ビジネスに影響があったということは、読者が記事に反応したという証でもある。こういった情報はメディア側も知りたいことです。

取材先が小さなビジネスの場合は、苦労しているところも多いですから、また取材してあげたくなるという人情もあります。大企業と違って、かっこいいところだけ見せていれば良いというものでもありません。

これらの条件は、お客さんへのアピールにも共通する

今回ご紹介したノウハウは、メディアに載るためだけの小手先のテクニックではありません。

メディアが取材に来やすいということは、しっかりと対外的な発信をしているビジネスだということ。

逆に言うと、お客さんへの情報提供を積極的にしていれば、自然に取材がしやすい状態になっていると言えます。メディアの人たちは、取材や記事の先にいる「読者」(=消費者)にとって役に立つ情報を提供しようとしているわけですので。

この記事でご紹介したことをきちんとやっていれば、小さなビジネスや仕事人のみなさんでも、取材が来やすくなるでしょう。

斬新な商品や話題を提供しようとするだけでなく、メディアのプロの皆さんが仕事をしやすいようにお膳立てをしてあげてください。

「取材しやすい」という基本中の基本。たいせつなお膳立て

メディア作法についての連載の最初に、小さなビジネスを営む皆さんが、意外と見落としがちなことからお話することにしましょう。

それは、あっと驚く話題を提供することでも、変な小手先の技でもありません。

なにかと言いますと、

メディアの中の人たちは、できるものなら取材しやすいところに行きたい

ということです。

プロだって人の子。手間をかけずに楽しく取材したい

高度な理屈に基づいて、冷静沈着に取材先を決めているというイメージを持っている方は多いと思いますが、ふたを開けてみると、メディアの世界だって皆さんと同じ人間が動かしています。雑誌やテレビを動かしているのは、冷酷非情なロボット達ではありません。

だから「取材がしやすい」ことは、とても大切です。できるものなら気持ちよく、楽しく仕事をしたい。他のお仕事をしている人たちと同じですね。

特に、マスメディアの皆さんは日々、締め切りとストレスに追われていますから、できるだけ手間がかからず、リスクが低くて、確実に読者が喜ぶ(=売上げが増える)ネタを好んで取材する傾向があります。

例えば、こんな2つのお店があったとしましょう

デザイン雑貨を扱うA店とB店が、東京のおしゃれな街に店を出していました。

両店ともに小さいながらも、オーナーのセンスは抜群で、店に並ぶ品々は一級品ばかり。インテリアもロゴマークも格好良くて、店員のサービスもなかなかのレベルです。どちらも開店から数年くらいで、知名度はまだ高くはありません。

さて、デザイン系の取材を得意分野にしている、阿部よし子さんというライターが、東京の最新デザインショップを紹介する特集記事を担当することになりました。締め切りはなんと1週間後!もともと予定されていた企画が取材先の都合で突然ボツになり、空いてしまった10ページの穴埋めです。

さあ、どうするよし子さん!?

おお慌てで、自分が好きな定番の店をリストにまとめ、残すページはあと1店分。ネットや業界系の知人からの情報をもとに、比較的新しい2つのお店に的を絞りました。

こだわりのオヤジがオーナーのA店

まず、「A店」に電話をしてみると、運悪くちょうど店が混んでいたらしく、頑固オヤジ風の店長さんが出て、ちょっぴりご迷惑そう。「すみませんあとでかけ直します!」と丁寧にお詫びして電話を置きます。タイミングが悪いのだから仕方ありません、お仕事中ですものね。

とにかくまずは、取材対象として可能性があるか、ウェブサイトを入念にチェックです。

店長さんの経歴は数行だけ書いてあり、プロフィール写真は載っていません。お店の写真は外観が少々。他の雑誌がどんな切り口で取材をしたことがあるのかチェックしようと、メディア掲載歴を探しますが見当たりませんね。やはり電話で詳しく聞かないと、取材に値するか判断がつきません。お店に行っている時間もありませんし。

むーん、やだなぁ、あの怖いおじちゃんに電話するの。文章はA級ですが、ライターさんによくある文系で、ちょびっと気の弱いよし子ちゃんなのです。

優しいお姉さんががんばっているB店

気をとりなおして、今度は「B店」の方のウェブサイトをチェックです。

こちらは、店長さんの経歴とこだわりが事細かく書いてあります。こんな人のお店なら、きっと商品もステキに違いない。

ブログは毎日更新されていて、ざっと見ただけでも記事に使えそうなネタが山盛り。海外からの仕入れの苦労話や、入荷したばかりの新商品についても情熱的に書いてあります。オーナーさん、がんばってますね!

メディア登場の実績リストも小さな媒体ばかりですがわかりやすく、ちょうど持っているインテリア誌にも載ったと書いてあったので本棚から引っ張り出すと、おお、店のインテリアも写真映えがするし、店長さんも写真うつり抜群。インタビューも慣れていそうな雰囲気です。

さっそく電話してみると、やさしそうな声のお姉さん店長が電話に出ました。取材先として検討しているとお話したら大喜びしてくださって、資料と写真を1時間以内にメールで送ってくれるそうです。超たすかる!

今日中に取材先を決めて、担当編集さんに候補店リストをメールしないといけないので、ここは確実に良い記事になりそうな、B社の方にするのがよさげです。昨夜は2時間しか寝ていないライターのよし子さんは、体に鞭打って、キーボードをたたき始めるのでした。

 

さて、この連載の次の記事では、この話の中に出てきたひとつひとつの「取材されやすい」要素について、ざっと解説をすることにします。

 

{写真:自分でデザインした商品を撮影する著者。2010}

連載はじめます。ちょっと変わった「マスメディアとのお付き合い作法」小さなビジネス&自営仕事人風

自営のプロや、小さなビジネスのオーナーさんなら、雑誌やテレビに取材してもらいたいと思ったことは、一度や二度はあるでしょう。

もしかすると、本屋に行って、マスコミとのつきあい方を指南する本を手にとり、パラリパラリとめくってみたこともあるかもしれない。

でも、そういう広報活動の本を読んでみると、「テレビ局にしつこくプレスリリースを送ればそのうち誰かの眼にとまる」とか、小難しいマーケティング戦略がどうのこうのとか書いてあって、ゲンナリします。

こういった本は、大企業にお勤めの方向けに書かれているものだから。

小さなビジネスとして、どんなPR活動をしたら良いのかということになると、地道に口コミでお客さんを増やせとか、毎日ブログを書こう!とか、誠実にサービスしようとかいう程度のノウハウしか転がっていません。

手に入るものと言えば、自称ビジネスコンサルタント達による怪しげな有料メルマガの類いや、聞いたことがない出版社による「楽して儲かる!」的な、間抜けなタイトルばかり。

ぜーんぜん、参考にならない。

楽じゃなくて良いから、自信のある最高のサービスや商品を、たくさんの人に知ってもらえる方法が欲しかった。

それから数年。自分の実体験から、小さなビジネスをやっているプロのために、マスメディアとのつきあい方を、私が書いてみるのもおもしろいかなと思いました。あったら自分が読んでみたいな、と。

いちおうデザイナーなはずのわたしが、こういうネタを書いても怒られない理由は、2つあります。

取材をしに行く「ライター・編集者」の視点

美大時代から、クリエイティブ系専門誌を中心に、ときおり書いてきました。

最近では、メディアとのつきあい方が超A級の佐藤可士和さんのような、有名なデザイナーさん達を取材させて頂いたこともありますし、スイーツ誌の仕事では有名なパティシエさんも取材しました。

ついこのまえは、ハリウッド版「Shall We Dance?」の衣装をデザインしたノルウェー人のおじちゃんを英語で突撃インタビューしたり、NY時代には、カメラを担いで美術館や社会起業家さんを取材しに行ったこともあります。

だから、専業ではないものの、ライターなり編集者として「取材に行くプロの眼」を持っています。どんなものが取材しやすくて書きやすく、そしてどんなものなら読者が喜ぶ=雑誌が売れるかを知っています。

幸か不幸か、自分が取材をされた回数よりも、取材に行った回数の方が多いというわけで・・・(しょぼ~ん)。

振り返ってみると、取材した対象は、専門職の仕事人や、自営の小さなビジネスが多かったと気付きました、いま。

のどから手がでるほど取材されたい「弱小ビジネス」側の経験

メディア側の仕事をしたことがある方はたくさんいらっしゃいますが、私の場合、ここからがちょっと変わっています。

この年末までの数年間、当時のガールフレンドを助けるために始めた、超低予算の花屋ビジネス立ち上げで、自分がデザインした商品を、自らプロデュースして売るということをやりました。

これが恐ろしいほど勉強になった。

メディア側の経験者という自負があったので、あの手この手で取材してもらえるように工夫しました。広報予算なんぞまったくありませんから、あたかも無料広告のように利用できるマス媒体が頼みの綱でした。

ところが、私の意図した通りにうまく行ったこともありましたが、まだはじめたばかりの弱小事業では、どんなにおもしろい商品を作っても載せてはくれなかった。

読者数が多くて社会的な影響力が巨大だから、どこの馬の骨とも知れない実績の無いものは、リスクが高すぎて載せてくれないという壁があることがわかりました。

特にスタートした頃は、空振りのしまくり。小さなビジネスや、はじめたばかりの仕事人が超えなければいけない壁というものがあることを実感した。

でも、数年経ってきたら、メジャーな媒体からお声がかかるようになっていました。ああ、マスメディアって、こういう仕組みになってるのねと知るに至りました。

デザイン屋が書く、ちょっと変わったマスメディア指南

これからどんどん増殖するであろう、小さなビジネスや自営仕事人のための、マスメディアとのお付き合いの作法を、この私の2つの実体験から、不定期で少しずつ書いていきます。

阿部書店を立ち上げていく中で起きる出来事も、リアルタイムで登場するかもしれません。

良いものをつくれば勝手に取材が来ると信じている、そこの職人肌のあなた、この連載、ぜひ読んでください。せっかく良いものをつくっているのに、もったいないです。

 

{写真:美大時代にNYから書かせてもらっていた「デザインの現場」誌(美術出版社)に、日本の若手デザイナー代表として自分も登場。当時21歳くらい。イタリア人デザイナーのセルジオ・カラトローニ氏と東京を歩く企画でした。1997年10月号「プロダクトデザインを考える」巻頭記事}