自営のプロや、小さなビジネスのオーナーさんなら、雑誌やテレビに取材してもらいたいと思ったことは、一度や二度はあるでしょう。
もしかすると、本屋に行って、マスコミとのつきあい方を指南する本を手にとり、パラリパラリとめくってみたこともあるかもしれない。
でも、そういう広報活動の本を読んでみると、「テレビ局にしつこくプレスリリースを送ればそのうち誰かの眼にとまる」とか、小難しいマーケティング戦略がどうのこうのとか書いてあって、ゲンナリします。
こういった本は、大企業にお勤めの方向けに書かれているものだから。
小さなビジネスとして、どんなPR活動をしたら良いのかということになると、地道に口コミでお客さんを増やせとか、毎日ブログを書こう!とか、誠実にサービスしようとかいう程度のノウハウしか転がっていません。
手に入るものと言えば、自称ビジネスコンサルタント達による怪しげな有料メルマガの類いや、聞いたことがない出版社による「楽して儲かる!」的な、間抜けなタイトルばかり。
ぜーんぜん、参考にならない。
楽じゃなくて良いから、自信のある最高のサービスや商品を、たくさんの人に知ってもらえる方法が欲しかった。
それから数年。自分の実体験から、小さなビジネスをやっているプロのために、マスメディアとのつきあい方を、私が書いてみるのもおもしろいかなと思いました。あったら自分が読んでみたいな、と。
いちおうデザイナーなはずのわたしが、こういうネタを書いても怒られない理由は、2つあります。
取材をしに行く「ライター・編集者」の視点
美大時代から、クリエイティブ系専門誌を中心に、ときおり書いてきました。
最近では、メディアとのつきあい方が超A級の佐藤可士和さんのような、有名なデザイナーさん達を取材させて頂いたこともありますし、スイーツ誌の仕事では有名なパティシエさんも取材しました。
ついこのまえは、ハリウッド版「Shall We Dance?」の衣装をデザインしたノルウェー人のおじちゃんを英語で突撃インタビューしたり、NY時代には、カメラを担いで美術館や社会起業家さんを取材しに行ったこともあります。
だから、専業ではないものの、ライターなり編集者として「取材に行くプロの眼」を持っています。どんなものが取材しやすくて書きやすく、そしてどんなものなら読者が喜ぶ=雑誌が売れるかを知っています。
幸か不幸か、自分が取材をされた回数よりも、取材に行った回数の方が多いというわけで・・・(しょぼ~ん)。
振り返ってみると、取材した対象は、専門職の仕事人や、自営の小さなビジネスが多かったと気付きました、いま。
のどから手がでるほど取材されたい「弱小ビジネス」側の経験
メディア側の仕事をしたことがある方はたくさんいらっしゃいますが、私の場合、ここからがちょっと変わっています。
この年末までの数年間、当時のガールフレンドを助けるために始めた、超低予算の花屋ビジネス立ち上げで、自分がデザインした商品を、自らプロデュースして売るということをやりました。
これが恐ろしいほど勉強になった。
メディア側の経験者という自負があったので、あの手この手で取材してもらえるように工夫しました。広報予算なんぞまったくありませんから、あたかも無料広告のように利用できるマス媒体が頼みの綱でした。
ところが、私の意図した通りにうまく行ったこともありましたが、まだはじめたばかりの弱小事業では、どんなにおもしろい商品を作っても載せてはくれなかった。
読者数が多くて社会的な影響力が巨大だから、どこの馬の骨とも知れない実績の無いものは、リスクが高すぎて載せてくれないという壁があることがわかりました。
特にスタートした頃は、空振りのしまくり。小さなビジネスや、はじめたばかりの仕事人が超えなければいけない壁というものがあることを実感した。
でも、数年経ってきたら、メジャーな媒体からお声がかかるようになっていました。ああ、マスメディアって、こういう仕組みになってるのねと知るに至りました。
デザイン屋が書く、ちょっと変わったマスメディア指南
これからどんどん増殖するであろう、小さなビジネスや自営仕事人のための、マスメディアとのお付き合いの作法を、この私の2つの実体験から、不定期で少しずつ書いていきます。
阿部書店を立ち上げていく中で起きる出来事も、リアルタイムで登場するかもしれません。
良いものをつくれば勝手に取材が来ると信じている、そこの職人肌のあなた、この連載、ぜひ読んでください。せっかく良いものをつくっているのに、もったいないです。
{写真:美大時代にNYから書かせてもらっていた「デザインの現場」誌(美術出版社)に、日本の若手デザイナー代表として自分も登場。当時21歳くらい。イタリア人デザイナーのセルジオ・カラトローニ氏と東京を歩く企画でした。1997年10月号「プロダクトデザインを考える」巻頭記事}