四ツ谷の新仕事場と、お金をかけないインテリアのススメ。

迎賓館から直線距離で200mほど。昔ながらの静かな都会の住宅地に、仕事場を移しました。

JR四ツ谷駅から歩いて7分。学習院初等科の裏手で、かの、レストラン「オテルドミクニ」から歩いてすぐというブランド力ある場所なのですが、借りた物件はボロマンションです。お家賃は、相場よりも安く、47平米/12万円ぽっきり。

ただし、わたしが興味を持ったくらいですので、ネットで物件情報を見て、キラリと輝くものを感じました。不動産屋にコンタクトして、すぐに見学、ほぼ即決。

潜在的なポテンシャルを秘めている、ボロくて安い物件は大好物です。特に、四ツ谷〜曙橋近辺には、商売気の無いお年寄りの大家さんが所有するマンションが多く、穴場。これで二軒目になります。年配の大家さんだと、自営業でもあまり気にしないようで、審査が通りやすいのも重要です。

うちの大家さんは、四ツ谷界隈では有名な地元系スーパー「丸正」の社長さん。契約書を見て驚きました。うちの隣が、その社長様のお屋敷です。

住宅や家具は、高くてレベルの高いものよりも、安くてコストパフォーマンスが高いものを見つけるのが好きです。いずれ、また海外に引っ越すときに拠点をたたむことも視野に入れ、だれかに丸ごと差し上げても良いように、多くはIKEA・ニトリ・Amazonの激安品を利用しています。

選ぶ眼は必要ですが、頭を使って、安くても使えるものを組み合わせれば、見栄えはするもの。お金ももったいないですしね。家具よりも「照明」が、安上がりに雰囲気を出せる重要な要素です。

そもそも事務所はお金を稼ぐ場所なので、元が取れないお高い家具を買っても趣味の世界になってしまいます。プロのカメラマンが必ずしも最高峰の機材ではなく、必要十分な1つか2つ下の機種を選んだりすることがあるのと同様、仕事場にも無駄なお金はかけるべきではありません。経費をかければ、お客さんにチャージしないといけなくなります。

自宅も別に飾り付ける興味は無く、至って質素な生活スタイルです。仕事の方にクリエイティビティーを使いたいので、自宅で無駄な思考エネルギーは浪費したくないとでも言いますか。お客さんのビジネスや生活をかっこよくすることが仕事なのであって、自分の生活は職業柄必要な程度に見栄えがすれば良いと思っています。

クリエイティブ系の仕事人は、意外とシンプルな生活をしている人も多いのです。華やかなのは作るもの自体の方で、有名な方でも裏側は地味で質素な世界。かっこつけるのも、時間とお金がかかりますので。他のもっと肝心なことに使いたい。

木の家具作りの勉強をしていた頃や、NYで工業デザインを学んだときには「一生使えるもの」をデザインしろと教わったものです。ただ、引っ越しすることが多い現代人には、あまり長持ちする家具は、文字通りお荷物になることもあります。昔は、ひとつの場所に何十年と住み続けるのが普通だったので、重い家具や大量の本を持っていても気にならなかったものと思います。

マレーシアに引っ越すときに、持っていたものの9割を思い切って捨てました。

処分に数ヶ月も苦労しました。あれは、もう二度とやりたくないという気持ちと、物を捨てた後にものすごく精神的にすっきりして身軽になったので、いまは、どうしても必要なものしか買わないという方針です。

最高峰の写真家集団「マグナム・フォト」に写真を買いに行った話

仲の良い友人が初めてアート写真を買うことになり、お目付け役を任命されて、かのマグナム・フォトの、東京支社を訪ねました。

「アートを買いたいのだけどどこで何を買ったらよいか?」との相談。

絵画や彫刻に比べ、「写真」なら、有名作家の作品でも比較的安いし、理解しやすく、保管や管理も容易です。そして、写真を買うなら、王道はやはり「マグナム・フォト」ではないかとアドバイスしました。

マグナム・フォトは、所属することが極めて難しいことで知られる、言わずと知れた世界的写真家集団。1947年に、ロバート・キャパとアンリ・カルティエ・ブレッソンら4人の写真家が設立し、現在は69名が所属。ニューヨーク、パリ、ロンドン、東京に事務所があります。みなさんが雑誌や新聞でみたことのある有名な写真には、マグナムの写真家によるものが多数あります。

アメリカの公式販売サイトでは、公式プリントがリーズナブルな値段で売られていますので、見てみるのも楽しいです。売られている写真には3のタイプがあり、写真家の直筆サイン入りのもの「Signed」、プリント数が限定されている「Edition」(Singed & Ed)、すでに亡くなっている著名写真家の作品は「Estate Stamped」と言って権利を管理している組織の公式印が打たれたもの。限定数の作品は、残りが少なくなるにつれて値段が上がっていくとのこと。

今回の訪問では、このサイトで気になったもののうち一部を、現物または小さなプリントで用意して頂いて拝見。アメリカから直に買うこともできるのですが、今回は、あこがれのマグナムのオフィスにお邪魔してみたかったこともあり、東京支社に参上してオーダーすることに。東京・神保町の、三省堂本店の裏手にあります。聞いてみたところ、東京支社は、数少ない日本人のベテラン所属フォトグラファーのひとり、久保田博二さんが社長という形になっているそうです。

IMG_20160427_142416

暑い春の週末の昼頃で、到着早々、冷たい麦茶を頂きながら、写真集などもチェックしつつ、連れが目をつけていた作家の作品を物色。東京支社ディレクターの小川潤子さんが、それぞれの作家や作品の注目すべき点を、いろいろ説明してくださり、私も勉強になりました。

写真の買い方としては、写真集などを見て、好きな作風の作家を複数決め、その中から選ぶというのが良いと思います。マグナムの場合は個性派揃いなので、ジャーナリズム系からアート系まで、好きな作品を見つけるのには苦労しないでしょう。希望すれば、好きなタイプの額装まで依頼できます。

聞いてみたところ、マグナム・フォトの写真家の作品ならば、指定すればあらゆる写真をプリントで買えるのだそうです。これは知らなかったので驚きました。ただし、写真家自身がサインするので、戦場カメラマンや海外遠征の多い作家の場合は、時間がかかるとのこと。

アートを買うのは、詳しい人でもハードルが高いですが、写真ならば単純に美しいものも多いし、作品の意図も理解しやすい。超有名な作品でも、十万円単位くらいで公式の本物を購入することができます。意外と簡単に買える本物のアートということですね。

ちなみに「写真をプリント」すると一口に言っても、こういったアート作品レベルのプリントは、単にボタンひとつでポンポンコピーされるものではなく、作家本人の監修の元に、熟練の職人が色や構図をあれこれ調整をした上で、長年保管できる芸術作品グレードでプリントされます。

マグナムの場合、若手写真家や、戦場カメラマン出身でまだアート作家としての価値が定まっていない作家の限定数プリントは、お買い得だと教えて頂きました。狙い目です。サイン入りや、エステートスタンプ作品は、プリント数に上限がありませんが、プリント数が定められているエディションならば、ある程度将来価値が上がる可能性も。

今回は、美大に行ったプロとして、助言する立場で同行しただけでしたが、お金に余裕があったら、いろいろ見せて頂いているうちに、天安門事件で戦車の前にひとりで立ち止まった男の写真を買いたいものだと思いました。あれは、自分の道を生きる、クリエーターをも象徴しているとでも言いましょうか。

あの写真でも、およそ20万円。このお値段で、超メジャーな歴史的写真の現物が手に入るのは、正直安いと思います。

 

歩くデザインの歴史。海老原嘉子さん、NYよりご降臨。

ニューヨークの美大時代に、石岡瑛子さんや、デザイン雑誌の仕事を紹介してくださった海老原嘉子さんが、四ツ谷の事務所においでくださいました。

15年以上ぶりの再会でございます。

ニューヨークを訪れる、日本のデザイン関係者の多くがお世話になっている神のようなお方で、かの地の美術館のパーマネントコレクションになっているデザイン作品の多くは、彼女の紹介を通して収蔵されています。MoMA(ニューヨーク近代美術館)にある、大量の日本のデザイン雑誌も、もともと彼女のコレクションだったもの。学生時代によく見せてもらっていたあの巨大本棚をまるごと寄贈したとのことです。

わたしが美大の授業の後に彼女のSOHOのギャラリーに寄って、仕事をお手伝いしたりしたのですが、その頃の会話とまったく同じエネルギー。20年以上前とまったくキャラも見た目も変わっていない。

「阿部くんも当時のままね」と海老原さん。そろそろ80歳なのに、すごいエネルギーなんです。私が負けそうな勢いのバリバリ現役仕事人です。

実はメールでは「阿部さん」だったんですが、うちの玄関を開けた直後から昔のまんまの会話で、あっという間に当時の「阿部くん」に名称戻りました。その方がしっくりきます。

うちに寄る前は、同じく四ツ谷にある故・柳宗理さんの事務所で、打ち合わせだったようで、巨匠・柳さんの話も出たのですが、なんと海老原さん、若い頃は、超イケメンの柳さんのかっこいいスポーツカーでよくデートしていたらしいです。

文字通り、歩くデザインの歴史。

カンボジア早朝のトゥクトゥク。ノーヘル◯学生に追い抜かれる。

1週間のプノンペン出張の最終日。早朝、空港までトゥクトゥクで向かった。

運転手のワンさんが「子供を学校に送ったあとでいいか?」というので遅い出発になり、渋滞に巻き込まれると飛行機に乗れなくなるペースだ。いかにもアジアな朝の喧騒に加えて、時計を気にしながらのヒヤヒヤな移動。

こういうのは、まったくもって嫌いではない。

アジアでは良く見かける三輪タクシーですが、激しくぼったくられた上に怪しげなところに連れていかれるバンコクのトゥクトゥクに比べれば、プノンペンのそれは極めて健全。この国の人はみな、明るく正直もののようだ。

地元生活が長い知人によれば、夜明けが早いプノンペンは、会社の始業時間が8時と早いらしい。そろそろ通勤ラッシュがはじまる時間帯。数えるほどしか信号機の無い街を、ときには交差点のガソリンスタンドの敷地を爆走して、ワンさんは裏道を右に左に曲がっていく。

国際空港にトゥクトゥクで向かったのは、はじめてのこと。ふうむ、これは率直にタクシーよりも楽しいじゃないか。

風とバイクの騒音を浴びながら、そんなことを考えて喜んでいると、隣を、ノーヘルで三人乗りした中学生のスクーターが、猛スピードで追い越して行った。

ゆるいな、プノンペン。

IMG_20151027_065406-1024x768