「取材しやすい」という基本中の基本。たいせつなお膳立て

メディア作法についての連載の最初に、小さなビジネスを営む皆さんが、意外と見落としがちなことからお話することにしましょう。

それは、あっと驚く話題を提供することでも、変な小手先の技でもありません。

なにかと言いますと、

メディアの中の人たちは、できるものなら取材しやすいところに行きたい

ということです。

プロだって人の子。手間をかけずに楽しく取材したい

高度な理屈に基づいて、冷静沈着に取材先を決めているというイメージを持っている方は多いと思いますが、ふたを開けてみると、メディアの世界だって皆さんと同じ人間が動かしています。雑誌やテレビを動かしているのは、冷酷非情なロボット達ではありません。

だから「取材がしやすい」ことは、とても大切です。できるものなら気持ちよく、楽しく仕事をしたい。他のお仕事をしている人たちと同じですね。

特に、マスメディアの皆さんは日々、締め切りとストレスに追われていますから、できるだけ手間がかからず、リスクが低くて、確実に読者が喜ぶ(=売上げが増える)ネタを好んで取材する傾向があります。

例えば、こんな2つのお店があったとしましょう

デザイン雑貨を扱うA店とB店が、東京のおしゃれな街に店を出していました。

両店ともに小さいながらも、オーナーのセンスは抜群で、店に並ぶ品々は一級品ばかり。インテリアもロゴマークも格好良くて、店員のサービスもなかなかのレベルです。どちらも開店から数年くらいで、知名度はまだ高くはありません。

さて、デザイン系の取材を得意分野にしている、阿部よし子さんというライターが、東京の最新デザインショップを紹介する特集記事を担当することになりました。締め切りはなんと1週間後!もともと予定されていた企画が取材先の都合で突然ボツになり、空いてしまった10ページの穴埋めです。

さあ、どうするよし子さん!?

おお慌てで、自分が好きな定番の店をリストにまとめ、残すページはあと1店分。ネットや業界系の知人からの情報をもとに、比較的新しい2つのお店に的を絞りました。

こだわりのオヤジがオーナーのA店

まず、「A店」に電話をしてみると、運悪くちょうど店が混んでいたらしく、頑固オヤジ風の店長さんが出て、ちょっぴりご迷惑そう。「すみませんあとでかけ直します!」と丁寧にお詫びして電話を置きます。タイミングが悪いのだから仕方ありません、お仕事中ですものね。

とにかくまずは、取材対象として可能性があるか、ウェブサイトを入念にチェックです。

店長さんの経歴は数行だけ書いてあり、プロフィール写真は載っていません。お店の写真は外観が少々。他の雑誌がどんな切り口で取材をしたことがあるのかチェックしようと、メディア掲載歴を探しますが見当たりませんね。やはり電話で詳しく聞かないと、取材に値するか判断がつきません。お店に行っている時間もありませんし。

むーん、やだなぁ、あの怖いおじちゃんに電話するの。文章はA級ですが、ライターさんによくある文系で、ちょびっと気の弱いよし子ちゃんなのです。

優しいお姉さんががんばっているB店

気をとりなおして、今度は「B店」の方のウェブサイトをチェックです。

こちらは、店長さんの経歴とこだわりが事細かく書いてあります。こんな人のお店なら、きっと商品もステキに違いない。

ブログは毎日更新されていて、ざっと見ただけでも記事に使えそうなネタが山盛り。海外からの仕入れの苦労話や、入荷したばかりの新商品についても情熱的に書いてあります。オーナーさん、がんばってますね!

メディア登場の実績リストも小さな媒体ばかりですがわかりやすく、ちょうど持っているインテリア誌にも載ったと書いてあったので本棚から引っ張り出すと、おお、店のインテリアも写真映えがするし、店長さんも写真うつり抜群。インタビューも慣れていそうな雰囲気です。

さっそく電話してみると、やさしそうな声のお姉さん店長が電話に出ました。取材先として検討しているとお話したら大喜びしてくださって、資料と写真を1時間以内にメールで送ってくれるそうです。超たすかる!

今日中に取材先を決めて、担当編集さんに候補店リストをメールしないといけないので、ここは確実に良い記事になりそうな、B社の方にするのがよさげです。昨夜は2時間しか寝ていないライターのよし子さんは、体に鞭打って、キーボードをたたき始めるのでした。

 

さて、この連載の次の記事では、この話の中に出てきたひとつひとつの「取材されやすい」要素について、ざっと解説をすることにします。

 

{写真:自分でデザインした商品を撮影する著者。2010}

投稿者:

阿部譲之

主にデザイナー業。マレーシア・ペナン島在住。中学校の美術教科書に作品掲載。グッドデザイン賞受賞。十四代目伝統木工の家に生まれ日米修行→NYの美大で工業デザイン専攻しながら石岡瑛子氏のお手伝い→フリーランス七転八倒→ちょっと新生銀行勤務→ちょっと花屋→ 阿部書店(株)を設立して主にデザイン業→ 双子が産まれる → ペナン島にお引っ越し。その昔、日本のデザイン誌を中心に寄稿。ツイッター @yoshiabe