自分がもう一人いたら、いろいろ楽だろうなぁ。〆切に追われながら、そう何度も妄想したことがあります。
そんな私が去年の初夏、会社をつくったら、なぜか自分がふたりに増えてしまいまして、いろいろと有利になりました。
主に、税金上のことですので、仕事は楽になりませんでしたが。
会社と節税の話には、私のまわりの仕事人さんたちが、強く興味を示しているので、一個人のプロが小さな株式会社をつくるとどんなメリットがあるかを、「二重人格」という、ちょっと変わった視点からご紹介します。
わたしは、ずっと個人営業のデザイナーとして仕事をしてきましたが、橘玲さんの『貧乏はお金持ち』という謎めいた本を買ったことがきっかけで、昨年の初夏に思い切って、阿部書店株式会社という会社をつくりました。
会社を作る理由は、大企業との取引で社会的信用が必要とか、儲かってきたので法人にして節税!・・・というものが大半だと思いますが、わたし自身としましては、「分身の術」が使えるようになったことが、予想外に一番便利だと実感しています。
まず、基本的な概念からご説明しましょう。
「人」というと、肉と骨の固まりである私たち自身をまず思い浮かべますね。法理上は「自然人」と呼ばれ、そのへんにゴロゴロいる、あの2本足で歩き、よく鳴くあれです。神様がつくった人、とも言えるかと。警察に守ってもらったり、裁判を利用したり、パスポートを持って外国に行ったり、お金を借りたりなど、平等の権利が保証されている生身の生き物です。
生身の人間以外に、ちょっと変わった「人」もあります。株式会社をはじめとする「法人」というやつで、人自身がつくった、もうひとつの人です。
「法律」の力により、自然人と似た権利を持つことができる「人格」という意味だそうです。一般的には複数の人が一緒に活動しやすいように集まったときに持つものなので、社長のほかに監査役など数人が必要でした。ところが景気対策の一環で、資本金1円でも株式会社が作れるようになっただけではなく(前は1,000万円必要でした)、「1人だけ」で株式会社を作れることになりました。
1人で会社を作れるということは、たいそうなことには聞こえませんが、これが実は、どえらいことなのです。
つまり、事実上、会社なのに一個人とほぼ同じということです。普通の会社と性質が違うので、俗称「マイクロ法人」と呼ばれています。株主はオーナーである自分だけなので、社長の一存でなんでもできることになります。つまり、一個人と大差ありません。
さて、こうして自由に使い分けられる「2人の自分」が生まれると、どうなるでしょうか? 次の記事で具体的にご紹介します。