正式発注ダン。iPhoneアプリと言う名の「20万円」プチギャンブル

ついに「寿命アプリ」をインドに正式発注した。開発者募集から1週間ちょっとという、あっというまのプロジェクトスタートだ。

11社+1人のiPhoneアプリ開発先からのオファーから選ぶのは、悩ましい道のりだった。日本の会社とは比べものにならない超積極的な営業活動に振り回されながらも、ベストの1社を選んだ。

もろもろの条件が絡んでいるのは言うまでもないが、一番大きな要素となる、「金」の沙汰からご説明しよう。海外アウトソースの胆となる要素あるからして。

入札してきた各社とも、私の書いたA4サイズ・4ページの基本仕様書を社内で検討した後、「200時間」前後の開発時間が必要だと見積もってきていた。

開発工数については、どこも互角。私の作ったデザイン案は、彼らにとっては簡単に作れる部類のようだ。作るのに必要な時間が同じとなると、1時間あたりの単価が鍵。これは国や、会社によってまちまちだった。

Skypeを使って発注の可能性を相談をする中で話が盛り上がり、情熱的な仕事人(かつ共同オーナーのひとり)のVijay氏と仲良くなった「Quitet Solutions」社は、チャージが1時間あたり「20ドル」。仕事ができそうなわりに安い。ただし、見せられるiPhone開発事例が2つだけだったのがネックになった。私のデザイン仕様書を見せたところ「これはぜったい売れるぜ!」とノリノリの反応を示してくれたのは嬉しかったし、工数見積もりは「この時間数を超えても私に請求はしない」という補償付きというのは好印象だったので、残念だった。

一方、発注先として最終的に選んだ 「TechAhead」(テックアヘッド社) は、iPhoneアプリの開発事例が充実していて、極めて新規クライアント獲得に積極的。「今後の長い関係が期待できるなら1時間15ドルでやる」と一番最初から申し出て来ていた。激安のインド他社の相場からさらに、25%引きである。しかも、Skypeでの打ち合わせの結果、さらに割り引いて従量チャージではなく、定額請求の「2,500米ドル」で引き受けるというではないか!日本円で20万円少々という、魅力的なオファー。

これで心は大きく動いたが、世界レベルの営業活動をあなどってはいけない。

複数のプログラマーを投入してたった3週間で納品するという。3週間では、こちらがつくる画面デザインが間に合うかどうかという超スピードだ。これを聞いて、わたしは率直に、こちらのケツを叩いてくれそうで良いと思った。こっちよりも、発注先の方が仕事が早いなんて理想的ではないか!

しかし、そういう甘いオファーには条件が付きものだ。

つきつけられたのは「すぐの発注」。その週スタートなら人に余裕があるので安くできると言っている。このインド物価でも安いチャージでは、かなりの数のプロジェクトを同時進行しているだろうから、そういう事情もあるだろう。一抹の営業トーク臭も感じつつ、すぐに返事をすると伝えた。

そんな最終的な決断を迫られているまっただ中、突然、他社より1週間遅れてオファーを出してきた、ウクライナの会社があった。もう、TechAheadでゴーか?とほぼ決めていたときのことである。

連絡してきたのは「PopAppFactory」という、首都キエフにある開発会社。世界マーケット進出の一環で、Elanceを使い始めたばかりだという。担当者はエレナさんという女性で、メールのやりとりも穏和な感じでプロフェッショナル。最近、社内のデザイン部門を独立させて、デザイン専門会社も持っており、同じフロアで仕事をしていると言うではないか!作品集は、極めてデザイン性が高く、定価は1時間35ドルで、インド相場よりも高いのだが、本気で悩んだ。ソフト開発は、開発チームが自らデザインの細かい部分を作り込めるのが理想なのだ。全デザイン要素や文字サイズ・色をこちらで指定するのは、正直しんどい。先方にまかせられるなら、少しくらい高くても納得である。

時給35ドルだと50万円コースになる。TechAheadへの正式発注期限までカウントダウンしている最中、さんざん悩んだ末、金額的に無理だと判断した。そこで、TechAheadに正式発注をかけた直後に、事情を説明して、PopAppFactoryにも今後のために見積もりをくれと頼んだ。すると「iPhoneアプリ開発の最低チャージは2,500ドルなんだけど、このデザインならたぶんその最低額で受注できるわ。こちらのアートディレクターと相談してから正式な金額のオファーになるけど」とエレナ。しかし、すでに、Elance.comの「正式発注」ボタンを押した後だった。契約は完了してしまっている。ウクライナの時差が、インドよりも数時間遅かったのが、災いした。これがグローバルな取引の定めというところか。

惜しい話は、これだけではない。しつこく「iPhone事例があれば見せてくれ」と頼んでいたQuintet SolutionsのオーナーVijay氏。後日のことだが、私も日常的にお世話になっている某社の次期iPhoneアプリを開発中だと教えてくれた。クライアントの担当者に話してもよいか確認まで取ってくれたようで、私も使っているアプリだったので驚いたが、時すでに遅し、すでに正式発注をした後だった。次の機会に仕事をさせてもらうことにしよう。

さて、発注先として決めた「TechAhead」社は、費用が安いだけでなくなかなかの実力派だ。当然、金額だけで選んだわけではない。

まず、マーケティング活動の積極さが、競合他社を寄せ付けないレベルだ。費用の返金保証だけでなく、バグ取りは30日間無料サービスするという念の入れよう。西洋人顧客が、TechAheadを褒めちぎるYouTubeビデオまで複数掲載している。

Elance.com上でのプロジェクト実績も多く、掲載されている顧客レビュー評価も高い。モバイル端末用ソフトの開発を主な仕事としているので、開発事例も多数。事例のビジュアルデザイン性については、平均レベルだが、20万円なら少しは妥協してもよかろう、という気分になった。最終的に3つに絞り込んだ候補のうち2社は、Elance.comを使い始めて日が浅いことも不安材料になった。Elanceは、契約や支払いの仲介機能を提供しているので安心だし、私がElanceを使ったプロジェクトを1度はやってみたかったこともある。

ところで、信頼できる人の紹介もなければ、もちろん会ったことも無い海外の相手に仕事を頼むわけなので、選ぶこちらは慎重にならざるをえない。20〜30万円とは言っても、英語風に言うと「トイレに流してしまいたくはない」。これは、ちょっとしたギャンブルだ。

そんな話を同居人の花屋店長にしたところ、「最初なんだから失敗するつもりでやりな」と申すではないか。勤め人で、飛行機のお姉さん思考だったはずが、いつの間にやら、そんなビジネスマンみたいなことを言うのでビックリした。そりゃそうかもしれない。日本やアメリカの会社に頼むと100万円コースになるところを、20万円で3週間、なわけである。最初のトライが、簡単に作れるアプリだったのは助かった。世界の全iPhoneユーザーを相手に1,000本売れば開発費だけは回収できると試算して、気は楽になった。

今回のプロジェクトはTechAheadに発注したものの、Elance.comで募集をかけて良かったのは、他の開発会社を見つけられたという大きな収穫。

地球には腹を空かせたスゴ腕の仕事人達がウヨウヨいて、安い金額で仕事を引き受けてくれる。

中野区新井の小さな花屋を手伝いながら、各国の優秀な会社とのネット交渉をするという対照的な1週間で、それを実感した。日本という箱の中だけでビジネスをするだけもったいない。グローバル化と言っても、私たちは意外に西洋と日本だけが世界だと思っているんじゃないだろうか。

地球はずいぶん広いみたいよ、みなさん。

投稿者:

阿部譲之

主にデザイナー業。マレーシア・ペナン島在住。中学校の美術教科書に作品掲載。グッドデザイン賞受賞。十四代目伝統木工の家に生まれ日米修行→NYの美大で工業デザイン専攻しながら石岡瑛子氏のお手伝い→フリーランス七転八倒→ちょっと新生銀行勤務→ちょっと花屋→ 阿部書店(株)を設立して主にデザイン業→ 双子が産まれる → ペナン島にお引っ越し。その昔、日本のデザイン誌を中心に寄稿。ツイッター @yoshiabe