妄想から生まれたアプリに初めて触る 〜 最初の実機テスト版、インドから届く

正式発注から丸3週間になろうという昨夜、インドからテスト版アプリが送られてきた。

これが、自分のiPhoneにインストールしてチェックできる一番最初のバージョンだ。デザイン画にすぎなかったアプリに、文字通り指で触れる、感動の瞬間である。

初めて仕事を頼んだ相手なので、最初のラフ版の出来がどうかで、先行きがある程度想像できる。半分楽しみでもあり不安でもある複雑な心境だ。送られてきたのが夜遅かったこともあり、また、見るのが微妙に恐ろしかったりもして、翌朝にインストールすることにした。

開発途中のiPhoneアプリは、自由に配布するのは技術的に制限されている。Appleを介さない販売を禁止するためのルールだ。そこで、どうやってiPhoneの実機でのテストや、公にベータテストをするかを簡単に説明したい。

まず、テストに使いたいiPhoneに割り当てられている「UDID」という固有シリアル番号をAppleの開発者サイトで登録する。「Mobile Provisioning File」という証明ファイルを発行できるようになるので、開発途中版のアプリ本体と一緒に、テストを頼みたい相手にメールで送る。基本的にはこれだけのことだが、Appleとの手続きが初心者には複雑なので、今回は慣れているTechAhead社の連中に頼んだ。

届いたこの2つのファイルを、パソコンのiTuneにドラッグ&ドロップしてから、iPhoneとシンクロ。すると、画面にアイコンが出現する。アイコン画像をまだ開発チームに渡していないので、のっぺらぼう状態(右)。アプリ名も発注時の仮称「LifeMeter」のままだが、このあたりは、まとめて変更依頼を出して変えてもらおう。

起動してみると、意外にも普通に動いているではないか。人の寿命をグラフ表示する「ホーム」画面(この記事のトップ写真)は、ほぼこちらの意図したとおりになっていて、ホッとした。こちらで画像パーツを提供して、そのままプログラム中に埋め込んでもらっているので、あまり大きく外すことはないわけだが、自分の作業量が増えるのが言うまでも無い。

文字のサイズや色、細かいズレなど、デザイナーとしては直させたい欲求に駆られるが、プログラムがどんどん変化していく間にどうせまた壊れるので、まともに動くようになってから最後にまとめてビジュアル上の修正指示を出すことにする。プロラムはまともに動くかどうかが命であるからして。

こちらはホーム画面でリストに登録した人それぞれの、詳細情報とTo Doリストを表示する画面。

まだ要素の仮置きまでで、機能は搭載されていない。次回のチェックまでお預けである。ま、しかし、このダミー画面があるだけでもなんだかホッとする。To Do リストの部分は本番デザインになっていない。聞くところによれば、プログラミングの担当者が、この画面用に送った指示書があることに気付いていなかったそうだ(笑)

各人の名前や生年月日を入力する画面。ほとんど向こう任せにした結果、そりゃ当然こうなるよね、という実例。

iPhoneの標準的なインターフェース要素を使った画面は、デザインのトレーニングは受けていないプログラマーが作るから、こちらで具体的に欲しいデザインを指定しないといけない。と言っても、どんな作りが可能なのかを知らないので、勉強するか、他のアプリの例を資料として渡すしかない。この画面についてはテキストを入力した後にキーボードが消えなかったり、次の項目に進めなかったりと、まだまだ荒削り。

実は発注する前に「途中版はどうやって見せてもらえるのか?」と質問した。Skypeのビデオチャットを使って、開発中のバージョンを確認してもらうと言ってきたので「iPhone上で実際に動かしたい」と頼み込んだ。向こうとしては手間も増えるし、不都合な部分も見せてしまうことになるので、最後の段階までは触らせたくないだろうと察するが、徹底的に指で触ってみないと正確な指示を出せない。

テスト版を触っていると、紙の上で指定したデザインでは矛盾することも多くて、改良や追加機能はボロボロ出て来る。しかし、大割引をしてもらって総額2,500ドルの固定開発額にしてもらったので、最初に出した仕様書から大幅に変わってしまうと、申し訳ないというか怒られそうというか。こういうところは、日本人としては軽く恐縮してしまうわけで、どこまで頼んで良いのかがちょっとした葛藤である。

その一方で、世界標準としては、とりあえず無茶でも要求してみるというのが普通のようだ。発注前に話したTechAhead社のプロジェクト管理担当によれば、アメリカ人は「払った金以上の仕事を要求する」とのこと。一方「日本人はプロフェッショナルだし、欲しい機能やデザインが何かはっきりわかっている」とも言っていた。彼らにとっては、仕事相手の国民性によって、プロジェクト進行が大きく左右されるだろう。費用の割引はある意味「日本人割引」の可能性もあるのではないかと妄想している。

最初のテスト版が送られてくるまで、ずいぶん時間がかかっていたが、あまり催促はしなかった。さすがに「そろそろどうだい?」と催促をし始めたところ、やっと出てきたというわけだ。アメリカに5年住んでいたと言っても、遠慮がちな日本人の私には、まだこのへんの力加減がわからない。

さて、一通りテスト版アプリを触ってみたら、修正して欲しい点を細かく、具体的にリストに書き出し、インドの開発チームに送り返して、次のテスト版アプリがくるのを待つ。このサイクルを数回の繰り返し、完成まで2〜3週間の道のりというところだろうか。

考えようによっては、インドにアウトソースして作っているわりに、意外にもスムースに進行中。よしよし。

投稿者:

阿部譲之

主にデザイナー業。マレーシア・ペナン島在住。中学校の美術教科書に作品掲載。グッドデザイン賞受賞。十四代目伝統木工の家に生まれ日米修行→NYの美大で工業デザイン専攻しながら石岡瑛子氏のお手伝い→フリーランス七転八倒→ちょっと新生銀行勤務→ちょっと花屋→ 阿部書店(株)を設立して主にデザイン業→ 双子が産まれる → ペナン島にお引っ越し。その昔、日本のデザイン誌を中心に寄稿。ツイッター @yoshiabe