「Non-disclosure Agreement」という、いかにも恐ろしい見出しの書かれた紙切れ。
国際的なビジネスの舞台においては、「書面で約束しなかったことは、約束していないものとみなす」のが常識である。口約束と信頼関係を重んじる日本人としては、とうてい理解しがたいヤボな習慣だ。
iPhoneアプリの開発者の募集をするにあたり、怪しげな連中も読んでいるに違いないウェブサイトには、詳しいデザインまで載せるわけにはいかない。そこで、最初は簡単な概要だけを載せ、興味を持って連絡をしてくれた相手の一部に、詳しい企画書を見せて精密な見積もりを出してもらう。
その際に必要になるのが、通称「NDA」と呼ばれる秘密保持契約書だ。
これから見せてもらう情報を一切口外しないし、ましてや自分で盗作した場合には、思いっきり訴えまくってもらってかまいせん、という内容の誓約書である。
日本国内では、大手企業間のプロジェクトで、しかも金額の大きなプロジェクトにはよく登場するが、小さな事業やフリーランスの仕事では馴染みの薄い書類かもしれない。
秘密保持契約と聞くと、おおげさな響きがあるが、国際的ビジネスにおける「名刺交換」みたいなものと考えればよい。日本人があたりまえにやっていることを正式な書類にしただけのことである。
名刺交換と書いてみたのには理由はあって、万が一アイデアを盗用されたとして、2つの国にまたがる裁判など、時間も費用も手続きも気が遠いものになるから、弱小個人が訴えるのは現実的は話ではない。そんなことよりも、スピーディーに発売にこぎ着ける方がベターだ。
今回のような小さなプロジェクトにおけるNDAは、こちらが知的財産を深刻に守ろうとしているし、自分の企画に自信があるのだというアピールが主だと考える。NDAを交わさずに見せた企画やデザインは、お好きにパクって頂いて結構ですとお墨付きを与えているようなものなのだ。こちらが求めないと、ド素人だと思われてなめられる可能性もあるので、さっさと済ませてしまいたい儀式と考えれば良い。
ちなみに、秘密保持契約にサインをするということは、署名をさせられる側にとっては、似たような企画を手がけることができなくなる可能性もあり、はっきりしたメリットがない場合は渋られることもあるだろう。ほいほい気楽にサインして良い書類ではない。ELance.comでの募集においては、ほとんどの開発者が見積り段階で踏むステップなので、遠慮無く頼んで大丈夫。
ここで告白させて頂く。偉そうに書いてきたが、NDAにサインをさせられる立場に立ったことが何度かあるだけで、相手に署名を「させる」側は、今回が初めてである。
こういった場合、書類の送りあいはどうやるのだろうか。国際宅急便?ファックス?調べてもわかりそうにないので、ELance.comのサポートにメールをし、ついでに「他のクライアントとはどうやってるの?」と相手にも聞いたあげく、次のようにやった。
まず、ELance.comがサイトに載せているNDAのひな形をダウンロード。この手の書類は、マンションの賃貸契約のようなもので、ほとんど定型で使える。ネット上にはいろんな文章のテンプレートがあるが、早い話が、これから見る情報は一切口外しません、という共通の内容である。
自分と相手の名前、約束を交わした日付、そしてプロジェクトの名前部分を書き替えてプリントアウト。手書きで自分の署名をしてから、スキャンし、PDFにして相手に送る。受け取った先方は再度それをプリントしてからサインし、スキャンし直して私に送り返して完了。
こんな電子的なやりとりで法律的な効力が発生するのかは、正直言って疑問だが、署名した書類をFAXで受け取っても有効だと聞いたことがあるので、まあ有効なのだろうか・・・。
ネットで知り合ったばかりで日も浅いインド人さんにサインしてもらったら、次はいよいよ本題。デザイン仕様書を送って、見積もりをもらう。