突然ですが連載「iPhoneアプリで一攫千金、海外アウトソース」

私はよくいる、夢見がちなデザイン屋の一人である。

花を郵便で送るという例の無謀なサービスは、相棒とのコラボだったのが功を奏して形にはなったが、横たわる屍は数知れず。

その中のひとつは「iPhoneソフトで一攫千金」という、はやりの野望だ。自分でプログラムを書くために、高い本を5万円分、宅急便でアメリカから取り寄せて熱中して勉強したあげく、諦めた。

ウェブサイトのためのちょっとしたプログラムを書けるものだから、「プログラミングは天職」だと豪語していたのだが、パソコンやiPhone用の本物のソフトづくりは、まったく歯がたたなかった。

これには、我ながらびっくりした。

作れないという以前に、作り方の基本概念すら理解できない。メモリーマネージメントとか、オブジェクト指向とか、自分の目には見えないところで形を変えて動くプログラムというものを頭で理解できなかった。

悪あがきを続けた末、本のタイトルは次第に「アホでもわかる」といったものに姿を変え行き、ついには1年前に諦めた。不可能ではないにしろ、いつになったら売り物になるアプリができるかわかったものではない。

そして、唐突に、おとといの朝のこと。

ベッドの中で「海外にiPhoneソフト開発を頼むか」と頭に浮かんだ。

こういう脈絡が内容にも見える思いつきは、様々な小さな出来事の影響であることが多い。考えてみると、いろいろと思い当たるふしはある。

まず、先月休暇で出かけた「バリ島」。ガイドブックを読んでいたら、観光業に関わる現地人の月収はおよそ70〜150USドルだという。控えめに計算しても日本との差は10倍。観光客向けの場所で金を使ったとは言え、日本で使う1万円と比べると、数万円分の価値はあった。

お金の価値は一定ではなく、場所によって違うのだなぁと、そんなことを当たり前のことを思った。「物価が安い」という言葉だけでは理解できない感覚的なものというのはある。世界中あちこち行ったが、はじめてしっくり来た。

そんな金持ち観光客を相手にしたレストランやホテルのオーナーたちが、現地の若者たちを(おそらく極めて安い給料で)湯水のごとく労働力として使って金儲けをしている光景も目にした。大瓶のビンタンビールをガブガブ飲みながら、そんな光景を眺めていると、そりゃ、いろんなことを考える。平等を重んじる日本人としては、貧富の差はいかなる場合も「悪」だと思ってしまうが、上も下も、意外にも笑顔で幸せそうに生きているようだったのは、意外とでも言うか。

そしてもうひとつは、所変わって、東京都中野区。

手伝っている花屋がやっと人並みに繁盛してきたので、私のお手製受注システムから、本格的なネットショップサービス導入を決めたこと。

うちの花屋は、オリジナル商品やサービスばかりで、仕入れてそのまま売るという商売ではないので、理想的にはゼロからプログラムを書こうと思って途中までは作ったのだが、これも時間がかかりすぎるので諦めた。

月数万円程度の既存サービスだとデザインや注文システムなどの自由度は低く、あちこち妥協することになったのだが、発想を変えてみると、ちょっと妥協するだけで良いことも多い。自作だと数ヶ月かかる上に、その後も延々とプログラムの修正をしなければならない呪縛から解放される。

ちょっとした制約に妥協して、金と時間を節約。なにかにつけて自前で完璧に作ろうとする手先と頭が器用な自営業のデザイン屋としては、ちょっと新鮮な発見だった。

ビジネスにおいては、時間がかかることは機会(=金)の損失を意味するし、当然、金を稼ぐことは最優先である。デザインの仕事をしていると、往々にして、品質と顧客満足を優先させるのだが、花屋の手伝いを1年半してきた結果、自分の価値観は少しビジネス寄りに丸まった。

こういう出来事の後、海外にiPhoneソフトをアウトソースしたという話を前に読んだことが頭に浮かんだ。

ちょっと検索してみると、アメリカ・サンディエゴのiPhoneソフト開発者が最近書いた、こんなブログ記事を見つけた。

Why Outsourcing iPhone Apps was a No-Brainer for Us − なぜiPhoneアプリのアウトソースが考えるまでもない決断だったか?」

良い企画を思いつき、自分たちでもプログラムできないこともなかったが、さっさと海外アウトソースしたという話。

「We feel that no matter how awesome you think you are at something, there will usually be someone out there more qualified, more experienced and more than happy to do the task at a cheaper per hour rate than what your time is worth. − いかに自分がスゴ腕だと信じてたとしても、世の中にゃ君より経験があって、まさしく適任で、激安時給で喜んで仕事をしてくれる人がいるもんさ。」

なるほど。

彼らは「elance.com」で世界中の開発者達に入札をさせたのだと言う。

elanceは、世界中のフリーランスのプロに小さな仕事を発注できるウェブサイトの大手で、遙か昔、自分もデザイナーとして試しに登録してみたことがある古株。

それは話が早い。募集のテキストを英語で書き始めた。

投稿者:

阿部譲之

主にデザイナー業。マレーシア・ペナン島在住。中学校の美術教科書に作品掲載。グッドデザイン賞受賞。十四代目伝統木工の家に生まれ日米修行→NYの美大で工業デザイン専攻しながら石岡瑛子氏のお手伝い→フリーランス七転八倒→ちょっと新生銀行勤務→ちょっと花屋→ 阿部書店(株)を設立して主にデザイン業→ 双子が産まれる → ペナン島にお引っ越し。その昔、日本のデザイン誌を中心に寄稿。ツイッター @yoshiabe