自分の前に誰がかぶっていたとも知れない、ほのかに汗臭いヘルメットをかぶり、ウブドゥの中心部を目指していた。10年ぶりに乗ったバイクで走る、穴ぼこだらけの真っ暗な夜道。しかもレンタルしたスクーターの2人乗りである。
「石鹸」を買いに行って死んじまったらネタとしては笑えるかもしれない・・・暑さではなく、その妄想にいやな汗をかきながら、地元のバイカー達を見習って一方通行を逆走。後ろに乗っている相棒が知り合いに強く勧められたという店に、言われるがままに向かった。
芸術の街として知られる「ウブドゥ」の真ん中へん、サッカーグランドのそばに、この小さなオーガニック石鹸の店「KOU」はある。西洋人の旅行バイブル「ロンリープラネット」にも紹介されている、知る人ぞ知る店だ。
長くなりそうな買い物を待つ間、わたしは外から店を観察することにしたのだが、どうもこの店、となりの土産物屋とオーラが違う。
シミひとつない木の看板とガラス窓。チリ一つ落ちていない床。袋からカードまで統一されたデザイン。店員と客の交える会話の適度な距離感。そして、頼むと無料でもらえるいくつでももらえる小袋とパンフレット。
ここは赤道直下・バリ島ウブドゥ町である。東京では当たり前のこれらすべて、この地では、一泊800ドルの高級リゾートでもなければ、金を積んでもありつけないサービスなのだ。
どうも、オーナーが日本人らしい。
日本式の洒落た店を、そっくりそのまま異国の地に持ってきただけで、こんなにも強烈な異彩が放たれるのだという好例。素直に、びっくりした。
海という壁に隔離された「日本」という大きな箱の中で当たり前のように行われている、驚異的レベルのビジネスの営み。
こんな場所に来て、頭の奥のほうで理解してしまった。