マレーシア移住?!ある週末の妄想がリアルになるまで

有楽町のビックカメラの向かいに、「6th by Oriental」という、気に入っているバー・レストランがある。

南国アジアの高級ホテルや、ニューヨークのしゃれた店のインテリアを思わせる、どことなく異国情緒漂う店で、サービスも日本ぽくない。どこが日本ぽくないかというと指さしにくいのだが、若い時にあちこちの国で飲み歩いた思い出がよみがえる空気が漂っているのだ。

3日前のこと。四谷の自宅から、皇居の桜を眺めて1時間ほど散歩し、この店の奥の方の、静かなラウンジに相方と座って、サングリアをカラフェで頼んだ。客もまばらな土曜日の昼過ぎ。

さて、人生というのは、何かすごいことがいまにも起ころうとしているときには、いっぺんに波が次々と押し寄せるものだ。

例えば、このサングリア1杯から始まる、この週末の数日。

巨大な氷が押し込まれた寸胴のグラスから、紫色のドロッとした濃い口のサングリアをグビグビと飲み干した。アルコールが頭に届く頃には、よくニューヨークやアジアのこういう小しゃれた店で、悪友達と飲んだものだと思い出していた。

最近は大きな旅は年1回になっている。相方は、弁護士事務所勤務のカタギのおねーさんなので、急に出かけたりはできないし、ひとり旅もつまらないからだ。

気分転換に、仕事を抱えてどこか安いアジアの国で、自主缶詰にでもなってこようか。そういうことを、ご機嫌でニコニコしている彼女に話してみると、ひとりで行ってきてもいいわよ、と申す。

しからば、どこに行こうか?と考えてみたが、これといって行きたい国が思いつかない。

そんな贅沢な悩みを考えつつ、歩き疲れて家にもどり、カウチで脱力してテレビをつけたら、『国も人もあたたかい!海外南国暮らしのすすめ ~タイ・フィリピン・マレーシア~』というのが自動録画されていた。ちょうどよいタイミングだ。お茶の間番組・世界ふしぎ発見で、こんな特集をやる時代が来たか。

日本の退職組に人気の移住先が紹介される中、意外にも、マレーシアは中年家族が移住して、子供を現地の良いインターナショナルスクールに行かせている人もいるという。若い人でも金銭的な条件だけ満たせば、居住ビザ取得のハードルも比較的低いのだという。いままで考えたこともなかった国だけど、おもしろそうだ。ほう、現地で子育てという選択肢もありなのか!と、相方と盛り上がった。

観ている最中、電話が鳴った。ロンドンに住んでいる元中国人の実業家ロニーが、嫁(日本人)と子供を連れて、いま東京に来ているという。焼き鳥にいくからつきあえという呼び出し指令。その夜は、彼がロンドンやら中国奥地に買いまくっている不動産の話やらなんやらの話を肴に、英語で酔っ払った。中国人の国境を越えたたくましさには、いつも感心する。日本人が逆立ちしても真似できないたくましさだ。

妄想というのは、いきなり降ってくるものじゃなく、小さなきっかけの積み重ねではないかと思う。

実はサングリアでほろ酔いになる1週間ほど前、NYの美大時代の悪友アメリカ人、ジョナサンからもメールが来ていた。

やつとは、10年前にバンコクで起業しようと意気込んで、オフィスを探し歩いた仲だ。こいつは私同様に頭がおかしい男で、そのせいか付き合いが長い。いまは、サンフランシスコのフロッグデザインという会社で偉い人をやっている。知る人ぞ知る、初期のMacをデザインしていた事務所である。

届いたのは、また一緒にアジアで無茶な旅行をしてえなぁと、そんな文面だった。飛行機代を払ってやるからベガスにいかないか?とか、いかにもやつらしいイカレたオファーで、メールは締めくくられている。

安易にイイネぇ!などと書くと、ほんとに行くことになりかねないので、「おれはついに節約というものに目覚めた。金貯めてるから、いかねー」と、大人な返信をしてやった。

そろそろ家族を持つことを考え始めていて、都内に安いマンションでも買おうとしているのは本当。でもよく考えると、別に東京の都心にこだわる理由もなければ、日本にこだわる理由も無い。東京都内じゃ、いくら金を積んでも小さな箱しか買えない。同じ金額で青梅の山奥に一軒家でも買おうかと思っていたのだが、マレーシアは物価が日本の1/3だという。

そんなことを考えていたら、昨夜のこと。

とどめを刺すように、NY時代の別の悪友・ダリアから、facebookでメッセージが来た。

元イラク人のクレイジーな男で、マンハッタンを飲み歩いた仲だ。やつの一家はホメイニ氏の革命で国を追われる前は、現地で超のつく金持だったらしく、そのせいで太いネジが数本抜けている。

そのダリアから脈絡も無く、いとこを紹介したいという話が来た。女を紹介してやるという話かと一瞬思って、よく読むと、親戚のおっさんのビジネスのサイト3つを、制作&メンテしてくれるウェブ屋を探してるというのだ。何屋なのか、どこの国のビジネスなのかは書いていない。

なんで私に頼むのか皆目見当も付かないが、日本人デザイナーはブランド力があるので、世界でも一目置かれているので、英語ができるだけで、各国のへんなつながりから仕事が来る。

もうこうなってくると、国という枠にこだわっていてもしょうがないという気分になってくる。ここまでに登場した友人達も、元中国人だったり、元イラン人だったり、住む国はおろか国籍もぐちゃぐちゃである。

最近は、別に東京にいる必然性のあるプロジェクトはほとんど無い。一度も会ったことの無いイギリスのプログラマーと、ネットでやりとりしながら進めているウェブ仕事や、前にインドに外注したiPhoneアプリ制作のケースもある。マレーシアなら、インドに打ち合わせにいける距離だなぁと思ってみたり。

日本国内のプロジェクトでも、打ち合わせはごくたまーにしかなくて、ネットと電話と宅急便で仕事をしているので、突然マレーシアに引っ越したとしても、今のお客さん達は、困るということもなかろ。

マレーシアは、アジアの民族の交差点のようなところで、日本人でも居心地はよさげだし、みな英語を話すという。仕事的にも問題無し。LCCの「Air Asia」が、マレーシアのクアラ・ルンプールを拠点にしているので、東京も含め、アジアはどこに飛ぶにも激安だ。

こういう妄想を始めると、ガールフレンドとか嫁が切れそうになるものだが、実は私の相方も、ハワイに住んでいたことがあったり、シンガポールに引っ越そうかと計画していたこともある。私と同様にワクワクしている様子。

来週あたり、小脇に仕事を抱えて、クアラ・ルンプールに飛びます。