夜のシンガポール発、マレーシア・ペナン島に上陸。家探し編序章

数日滞在していたシンガポールのチャンギ空港から、夜19:40発のJetStar便に乗り、ペナン島へ飛んだ。

およそ1時間半の短い空の旅。シンガポールは、マレーシアの先端にくっついている小国なので、国内線のような感覚だ。時差も無い。

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東南アジアは、LCC(格安エアライン)の巨人たちが肩を並べる地球の一角なので、いろいろな安いチケットの選択肢があるものの、AirAsiaのシンガポール発ペナン行きよりも多少安かったので、JetStarで飛ぶことにした。

ジェットスターはオーストラリアのカンタス航空系で、格安エアラインの割にデザインのセンスがそこそこ良く、自分好み。エアアジアの方は、内装やら制服やらの色合いとデザインが、言うなれば錦糸町のチープなキャバクラといった風情。微妙な差ではあるものの、選べるならJetStarの方がいいなあ・・・と、このフライトで想いを新たにす。

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ペナン国際空港から、空港公式の定額制タクシーでホテルに向かった。空港はペナン島の南端にあり、中心部の北側へは高速道路を走って30分ほどの移動。

窓の外を流れていく夜の景色は、どこの国でも共通の、空港からの高速道路の眺めで、地元の人が住んでいるであろう質素な風貌のマンションや、シャッターの閉まった店、暗いオフィスビル、そして大きな看板が、街灯とともに流れていく。

途中、ハードディスクで有名なWestern Digitalの工場が眼に入った。あとで聞いたところによれば、ペナン州は税制優遇で海外企業をたくさん誘致していて、日本をはじめとする世界各地の工場があるそうだ。昔ほどではないと聞くが、いまでも日本の駐在員がたくさん住んでおられるのはこれが理由。

道中、タクシーの窓から左右の光景を、嫁としげしげ観察。大きなスーパーやら、コンドが見える度に、このへんはどうかね?と話は絶えない。空港からの道すがらは、地元色が強く、外人向けのリゾート感は無い。致命的なのは、本土との橋もかかるこのあたりの島の東側は、どう見ても車での生活が前提な雰囲気であることだった。私たちは車を買う気は無いので、歩いて生活できる場所が条件なのだ。

明日から始める住む家探しでは、島の北側を中心に歩いてみるのが良さそう。東側が、事前に調べて、家賃が安かったのは、地元の人向けのエリアだったからのようだ。

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ずっと続いたロマンティックではない郊外の景色が終わり、急に、歴史感ある低層の建物ばかりが建つエリアにタクシーがさしかかった。2008年にユネスコ世界文化遺産に指定されてた歴史地区だ。

夜で人影がほとんどなく、開いている店はほとんど無い。もっと観光地化している賑やかな場所かと想像していたが、思ったより地に足のついた静かな街のようだ。頭を「不便」という二文字が横切る。

アジア圏に強いAgoda.comで予約してあったツーリストクラスの「Armenian Street Heritage Hotel」 は、世界遺産エリアに建つ比較的新しいホテル。ペナン島の地理に詳しくなかったので、このあたりが中心部かと思って選んだものの、翌日には、世界遺産エリアは古い下町で、地元の人が住む一般的エリアでは無いことが判明する。

なぜにホテルの名前に、東ヨーロッパ・アルメニア共和国の言葉がついているのかと不思議に思ったが、アルメニア人の歴史的人物にちなんだ名前の通りが近いからだという。

この島は、ある種、香港のような歴史をもつところで、何百年もの間、インド・中国・マレー・日本・ヨーロッパなど、様々な国の商人が住む貿易拠点だった。その多様性は、現代にも引き継がれていて、マレーシアの中でも特に、いろんな民族が住んでいる場所。この島に外人が住みやすい背景には、そういう長い歴史があり、いまでは日本や西洋の国々から移住する人が増えているから、自分が外人だという意識はさらに薄れる。ニューヨークに4年住んだことがある自分には、この溶け込める感は、ことのほか嬉しい。

IMG_20140623_230719 (1)チャンギ空港で軽い夕食を食べただけなので、さすがに腹が減った。午前中にホテルをチェックアウトしてから、炎天下のシンガポール植物園を歩きまわって汗だくだったが、街があまりにも静かなのでシャワーも浴びず、レストラン危機を感じて二人してホテルを出た。

まだ夜10時だというのに人影がほとんど無く、静まりかえっている。世界遺産に指定された絡みで、営業時間の規制でもあるのだろうか?遅くまでやっていそうなカフェを調べてから出てきたものの、マレーシアのSIMチップをまだ買っていないのでスマホの地図が使えない。南に向かっていたつもりが、15分ほど歩いてから、真逆に歩いていたことに気付く。方向感覚が抜群だという自負があると、こういうときに深みにはまる。

たどり着いた場所は、インド人街だった。シンガポールでも宿が安かったリトルインディアに泊まったので、インドに縁があるようだ。夜おそくはインド人以外働いてないのか、このあたりは?

大きなオープンレストランなのでファンによる空冷。夜なのでさほど暑くはない。あっという間に出てきた飯は、期待以上に美味かった。妥協して入った店だったが、後日、TripAdvisorの人気店「Restoran Kapitan」だと知る。タンドリチキンのプレートセットと、バターチキンカレー、ナン、ラッシー2種。これで約700円。安い。タンドリチキンは、自分が日本で食べていたパサついたものとは雲泥の差で、もちもちしっとりした食感。いつも私よりも腹が減るのが早い嫁は、幸せそうにラッシーをチューチュー吸っている。

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翌朝。モスクのスピーカーから大音量で聞こえてくる、祈りの声で眼がさめた。

マレーシアは日が昇る時間が遅くて、時間の感覚が狂う。窓を開けると外はまだ暗い。再びベッドに転がり込んで天井を見上げると、謎の矢印が眼に入った。お祈りのための、メッカの方角だろうか。そう、この国は、われわれ日本人にはなじみの無い、イスラム教の国なのだ。

今日からの家探しの条件リストに、「モスクが近くにないこと」を書き足した。

投稿者:

阿部譲之

主にデザイナー業。マレーシア・ペナン島在住。中学校の美術教科書に作品掲載。グッドデザイン賞受賞。十四代目伝統木工の家に生まれ日米修行→NYの美大で工業デザイン専攻しながら石岡瑛子氏のお手伝い→フリーランス七転八倒→ちょっと新生銀行勤務→ちょっと花屋→ 阿部書店(株)を設立して主にデザイン業→ 双子が産まれる → ペナン島にお引っ越し。その昔、日本のデザイン誌を中心に寄稿。ツイッター @yoshiabe