良い花屋を瞬時に見分ける、たった1つの簡単テクニック。元花屋、どや顔で語る

デザイン屋の私が、偉そうに花業界のことなど書けるのには理由がありまして、当時の相棒と数年間花屋をやった経験があるからです。

今年は、5月12日・日曜日が母の日。毎年このときばかりは、ふだん花を買わない人も花屋に向かうようで、全国のお花屋さんは、年間の売上げの1割をたった数日で稼ぎ出します。

花の業界に足を突っ込んではじめてわかったのは、街の花屋の大半は、腐りかけの花を売っているクソ花屋だということ。大枚をはたいてお母さんに送る花ですからね、元プロの経験から、良い花屋の見分け方を伝授させて頂きます。

いきなり結論からいきます。極めて高確率で、かんたん見分けられるポイントは1つのみ!

良い花屋の証拠は『店頭に花1本単位の値札をきちんと出していること』。

これだけです。

値札の有無が、何を意味するのか? それは店の舞台裏を経験するとすぐわかることなのですが、値札を出している花屋は鮮度に自信がある目印だからです。「花なんて、市場で仕入れてきてからすぐ売ってるんだから、どこでも鮮度は似たようなものでしょ?」と思っているアナタ、それは素人考えです。

この値札が、花屋の営業方針を象徴しているのです。そこには、日本では、花が主に「贈り物」としての買われる商品だということが深く関わっています。

ギフト商品は、買う人と、実際に使う人が違います。

つまり、あなたのお母さんなり口説こうと思っている女子なりが花束を受け取った翌日に枯れてしまったとしても、買った人が気付く術がありません。受け取った側も、送り主に「すぐ枯れてしまった!」などと無礼なことは報告しません。腐ろうが、花びらがまとめてボットリ落ちようが、礼儀正しい日本人なら、ゴミ箱からはみ出ている花の束を横目で見ながら、「綺麗なお花を部屋に飾って楽しんでいます!」と、礼状など書いてみたりするでしょう。

この、買った人からも受け取った人からも怒られない、という好条件をうまく利用して、恐ろしいことをやっている花屋が、結構あります。つまり、

しょーもない花屋は、腐りかけの花から優先的に使って、贈り物の花束にして売っているという驚愕の事実。

スーパーが賞味期限の短い牛乳から先に売りたいのと、同じモチベーションです。

花は種類によって、寿命がだいたい決まっていて、簡単な手入れさえすれば1〜3週間程度は綺麗に咲き続けます。ところが、私が手伝っている当時「花を貰っても、数日で枯れちゃうから、あまり欲しくない」というお客さんの言葉をよく聞いて、んなアホな!と思いました。数日で枯れるということは、花屋に1週間とか、下手すると数週間置いてあった花に違いない。冷蔵庫で仮死状態にするとそれが可能なのですが、常温に出したとたんにあっというまに老化がすすみ、さらに結露した水分がたまって腐り始めます。

普通のビジネスだったら、高価で大切な贈り物商品には、特に鮮度の高い花を優先して使いそうなものです。ところが、街の小さなお花屋さんの多くは、その真逆をやっているらしく、それを知ったときに度肝を抜かれました。

1本1本の値段がきちんと書いてある花屋がなぜ良いのかというと、数本単位で買う花は、自宅用として買われるものだからです。

買う人と使う人が同じなので、鮮度が悪くてすぐに枯れたら、苦情を言ってくるか、無言で別の花屋に乗り換えてしまう。逆に1本単位の値札をつけていない花屋は、どうしてつけていないのかというと、いくつか理由がありまして・・・。

ひとつは、値札を付けるのが超めんどくさい、ということ。

花は生き物なので、賞「見」期限がありますから、市場で仕入れると、痛んでいるものや売れ残り率を考え、だいたい、仕入れ値の3〜4倍くらいを店頭価格にします。1本400円の薔薇は、市場でたいだい100円台で仕入れます。これは、実際に売っているとまあ妥当な倍率です。

「じゃあ、単純に計算して書きゃいいじゃない」と思う方もいるかと思いますが、実は、日に日に鮮度が落ちていくので、古い花は値下げをしていかないといけません。この管理も結構手間。怠慢な花屋は、そんなことはしません。

例えば、ある花の寿命が1週間だとすると、仕入れた直後に売れば1週間楽しめたものが、5日経つとあと2日しか鑑賞できない。花というのは、鮮度が高いほど楽しめる時間が長い商品です。

まともな花屋だと、その残日数にあわせて数日おきくらいで値引きをします。花屋で何本かおまけしてくれたりする理由の半分は、売れ残っても困る古い花をあげていることも多い。残ったら廃棄費用がかかりますので。花の値段は仕入れた日によって、上がったり下がったりもするので、正確に売価を計算しようとすると、何度も値札を作り直さないといけないということもあります。

花1本ずつの値段をしっかり表示している花屋は、鮮度に自信を持っているという証拠なのです。店頭は花の材料倉庫も兼ねているので、花束を買っても安心。そして、ドンブリ勘定で束にして高く売ることしか興味が無い花屋に比べ、品質や仕入れ日・価格を管理する地道な作業に手間暇かけているという、まともなビジネスならばごく当たり前のことやっているという事実の現れでもあります。

花業界が長い有名なフローリストさんから聞いた話ですが、実は、街の花屋の多くは、何十年も前に花屋を始め、店をビルに建て替えて家賃収入で食っているのだそうです。大人気の花屋にしようなどという、モチベーションがあるわけもなし。ほとんどのお客さんは、花はどこで買っても同じだと思っているので、一番近い花屋で買いますから、客足が途絶えることもない。店の上を見上げて、マンションぽかったら、む〜怪しい〜ぞぉ、と思いましょう。

もちろん、マジメに商売をしている店もあることはお伝えしておきます。花の回転が早い人気店や、有名店も鮮度に関しては問題なかろうかと。

最後に、母の日に花束を贈ろうという方に、私からのアドバイスをひとつ。

母の日の前後の花屋は、朝の新宿駅並みに混んでいて修羅場と化します。どうしても花束のつくりやサービスが雑になりますし、花の相場も上がりますので同じ金額の花束だと母の日の頃はお得感が下がります。売り手側として、母の日前の1週間にテンパリまくった私のオススメは、数日くらい早くプレゼントしてしまうか、花業界の混乱がおさまってから買うこと。サプライズ感もあっておすすめです。

投稿者:

阿部譲之

主にデザイナー業。マレーシア・ペナン島在住。中学校の美術教科書に作品掲載。グッドデザイン賞受賞。十四代目伝統木工の家に生まれ日米修行→NYの美大で工業デザイン専攻しながら石岡瑛子氏のお手伝い→フリーランス七転八倒→ちょっと新生銀行勤務→ちょっと花屋→ 阿部書店(株)を設立して主にデザイン業→ 双子が産まれる → ペナン島にお引っ越し。その昔、日本のデザイン誌を中心に寄稿。ツイッター @yoshiabe